第24話 どたばた調査
市場の品物を盗み食いしていた動物たちを狩る仕事を作ると提案したレティシア。
ライオネルから任せてもらえることになり…
「なんで王子が一緒なんですか?」
クリスタは目を細めながら呆れた様子で言った。
アルキオネ宮の裏口の扉の前に集まったのは4人。
いつも通りエマに髪の毛を隠してもらったレティシアと、身軽な格好のクリスタ。
そして平民の服を着たテオドールと、見習い騎士の服を着たクロード。
「兄さまにお願いしたんだ」
テオドールは両手を腰に当てて堂々と宣言した。
クリスタはため息をつきながらクロードを見る。
クロードは眼鏡をかけていて、普段は分けて下ろしている前髪を全てあげて固めている。
いつも腰に下げている剣は無く、どこかに短剣でも隠しているのだろう。
「クロード様、くれぐれもお願いしますよ。あたしは、姫様の事しか面倒見ませんからね」
クリスタは隣のレティシアをそっと抱きしめながら、クロードの顔を不機嫌そうに見て言った。
「王子がわんぱくなのは今に始まった事ではないので問題ない」
クロードは無表情のまま淡々と答える。
「あ~あの背が高くて髪が長い侍女は?」
テオドールはあたりをきょろきょろ見回しながら言う。
「マリアンヌ様ですか?急用との事で実家に戻られましたよ」
クリスタの返答にクロードの表情がピクリと動く。
テオドールとクリスタは気が付いていなかったが、レティシアは鉄壁男の表情の変化が少し気になった。
「まあここでもたついてても仕方ないんで、行きましょ~」
クリスタはけだるげに扉を開けた。
アルキオネ宮から市場へ向かう最短ルートでは、人で賑わう露店街を通ることになる。
レティシアはロストフォロがまた食べられるとうきうきしていた。
「姫様、今日は遠回りになりますが、こっちの道から行きましょう」
クリスタが示したのは露店街への道ではなく、少し薄暗く細い裏通りだった。
「えー!なんでだよ!ロストフォロ食っていこうぜ!」
一番に反応したのはテオドール。
レティシアもそれに乗ってうんうんとうなずく。
「あー!もう王子は黙っててください。こっちにも事情があるんですよ!」
いつも明るいクリスタだが、テオドール相手にはやんちゃな弟に振り回されてイラつく姉のようだ。
あからさまに落ち込むテオドールを無視して、クリスタはどんどん進んでいく。
「姫様」
クリスタがレティシアにそっと耳打ちする。
「露店街は人が多くて危険です。姫様はレクィアに見られてしまったので、協会の人間に見つかってはまずいので。ってあねさんが言ってました」
―レクィアってあの時のツインテールの女の子か…
「すみません、あたしがもっと強ければ、お守りできるんですが」
クリスタは少し悔しさと悲しさが入り混じった表情で落ち込んでいる。
レティシアは背伸びをしてクリスタの頭をポンポンと叩いた。
「クリスタは十分、レティを守ってくれているよ」
「姫様~!」
クリスタは自分の顔を両手でぎゅーと潰しながら喜びを現すと、レティシアをひょいっと持ち上げ抱きしめながらくるくる回って歩いて行った。
市場近くの小道に出たくらいから、何やらテオドールがあからさまにそわそわし始めた。
自分の前髪を触ってみたり、服を気にしたりしている。
「どうしたんですか、王子?お腹すいた?」
レティシアが笑顔で尋ねる。
「ばっか!ちげーよ。あとあれだ、オレは平民設定なんだから敬語はやめろ。んでクロードはオレの兄設定だ」
テオドールは顔を赤らめ慌てふためきながら答えた。
「姫様はあたしのご主人様なので、王子は逆に敬語使ってくださいね」
クリスタがにやにやしながらテオドールを見る。
レティシアはそんな二人のやり取りにくすくすと笑った後、クリスタに近づいてそっと耳打ちした。
「王子はお顔を隠していないけど、大丈夫なの?」
「紫の髪の毛は平民でも珍しくないですよ。瞳の色はあまり知られてないので、貴族じゃないと気づきません」
―そうなんだ。じゃあライオネルも髪の毛さえ隠せば来れるわけだ
レティシアはサラサラの銀髪をすっぽり隠しているライオネルの姿を思い浮かべた。
あの冷たいエメラルドの瞳がより一層目立って見える。
―圧でばれそう…
レティシアがそんなことを考えながら歩いていると、市場の入口へ到着していた。
さっそく足を踏み入れると、テオドールがこっそりどこかに行こうとしている。
「こら」
気づいたクロードがテオドールの首根っこを掴んで持ち上げる。
「なんでだよ~いいじゃんか!」
宙に浮かされたまま、足をばたつかせて抵抗するが、クロードはびくともしない。
「なーーにしてるの?」
騒ぎ立てる一行に、最初に声をかけてきたのはアリスだった。
この間来た時に、市場の廃れた理由を教えてくれた少女だ。
後ろで手を組みながら、宙に浮かされているテオドールの顔を下から覗き込んでいる。
テオドールはアリスの視線に気づくと、びっくりした様子で赤面し固まった。
クロードがテオドールを掴んでいた手をその場で離すと、軽やかに地面に着地する。
「別に何もしてねぇけど…」
赤面した顔を誤魔化すように、アリスと視線を合わせずもごもごとテオドールは答えた。
その様子を見てレティシアには電撃が走った。
―はっ!恋の予感!ミーナの時に移動中呼んでいた恋愛小説から得た経験が言ってるわ!
一方、クリスタは一連の流れを呆れた様子で見ている。
アリスはレティシアの方へ顔を向けた。
「あれー?この間のお客さん。今日も来たんです?前と変わらないですよ~」
レティシアはクリスタの袖を軽く引っ張ると、片手で口元を隠して耳打ちする。
クリスタはレティシアの話を腕を組みながら頷いて聞いている。
聞き終わると、アリスの方を見て言った。
「今日はちょっと別の用事で、アリスに聞きたいことあるんだけどいいか?」




