第23話 解決への挑戦
市場を襲っていた大量の動物たちは、不可侵の森であるエルフの森から来ていた。
解決しようのない問題を目の前にしたレティシアは…
―動物たちはエルフの森から来ている…
ライオネルは全てを分かった上で、あの場所にレティシアを誘導しようとしていた。
そしてそれは自分自身も解決できない大きな問題だった。
―結局舐められてはいたわけだ…
ライオネルの手のひらの上で踊らされていたことに悔しさを覚えながら、あの何でも簡単に解決しそうな皇太子すらも頭を悩ませている問題だと分かって、レティシアはどこかほっとしていた。
「動物たちの出所が分かったとて、そこは我々が一切干渉できない場所。これ以上の原因の究明も解決もできないんだ」
ライオネルは少し悔しそうな表情で言った。
「そして私は、根本原因をどう解決していけばいいのかということに囚われていた」
ライオネルはレティシアをまっすぐ見据えた。
「貧困している国民からすれば、エルフの森の問題など知ったこっちゃない。彼らの生活を考えれば、真っ先に思いつくはずの案をお前が提案してくれただろう」
―ああ!仕事を作るって話か
レティシアは自分が言った事なのにすっかり忘れていた。
納得した顔で片手で拳を作り、もう片方の手をぽんっと叩いた。
「皇太子としての生活が長すぎて見落としていた…」
ライオネルは誰にも聞こえない小さな声でボソッと呟いた。
「殿下?なんて言いました?」
ライオネルが何かを言ったことに気づいたレティシアが聞き返す。
「何でもない。とにかく、問題を解決するため皇太子の権限で仕事を作ることにした。何か案は思いついたか?言わせてやる」
「フゴッ」
レティシアが口を開こうとしたとき、途中から話に飽きてうたた寝をしていたテオドールが勢い良く傾いて目を覚ました。
「兄さま、ロストフォロが食べたいな~」
まだ若干寝ぼけているのか、寝言みたいなことを言っている。
「クロード、テオを連れて戻れ。稽古で疲れているだろう」
クロードはライオネルに丁寧に敬礼をすると、テオドールを抱えて静かに部屋から退出した。
―テオドールってレイモンドが言ってた通り、いい意味で素直だな
レティシアは寝ながら連れていかれるテオドールを見て、心の中でくすりと笑った。
ライオネルが咳払いをする。
レティシアは思わず背筋をぴんと伸ばしながら、ライオネルの方を向く。
「動物たちを狩りをする仕事を作って、市場で売るのが良いかなと!」
レティシアはすかさず、先ほど言おうとしていたことを宣言した。
それを聞いたライオネルが瞼をピクリと上げる。
「市場の人たちは最初は嫌かもしれないけど、漁場の問題はまた別問題だし、とにかく目の前の問題を一つでも解決すれば納得してもらえるかな~なんて、えへへへ…」
ライオネルの一切ぶれない表情に話しかけていくうちに、次第に不安になってきたレティシアは、最後の方には言いよどんでしまった。
ライオネルはふーーとため息をついた。
「良いだろう、任されたいか?」
―よっしゃーー!
レティシアは心の中で跳ねまわりながら大喜びし、最高の笑顔を作った。
「うん!レティやってみたい!」
ライオネルはレティシアとの話の中で決まった事柄を別室で仕事をしていたレイモンドに伝えた後、ギルバートと共にパゴス宮へ帰ろうとしていた。
「殿下~プッサスープを召し上がるのは久しぶりですね♪最近市井にお忍びも行ってなかったですし」
ギルバートはいつにもましてとても機嫌が良さそうだ。
自分は食べていないにも関わらず、主人が久しぶりに好物を食べられたことが嬉しい様子である。
「どうですか、姫様と一緒に行かれては?ロストフォロも食べたいです!」
ギルバートは軽い足取りで歩きながら、悪気なく言った。
その瞬間、ライオネルは鋭い視線でギルバートをにらむ。
「ギル、忘れたのか?あれは復讐相手の娘だ」
ライオネルの瞳には抑えきれない憎悪の心が浮かんでいる。
「ごめんなさい。そんなつもりじゃ…」
先ほどの屈託のない笑顔から一瞬にして、ギルバートの顔は曇りひどく落ち込む。
ライオネルはギルバートの顔を見て、悲しそうな顔で目をそらした。
「なあギル、僕が王位について復讐が終わったら、二人で田舎でゆっくり暮らすのも悪くないよな」
ライオネルはどこか遠い眼をしながら、他人事のように呟いた。
その言葉を聞いてギルバートは即座に真剣な表情になり、ライオネルの目の前にしゃがみ込んで彼を見つめる。
「殿下、それはなりません。あなたが一番わかっているはずです」
そしていつもの優しい表情に戻ると、ライオネルを愛おしそうに見つめた。
「この冷たい王宮でも、僕はずっとライのそばにいるよ」
ライオネルは俯いて唇をぎゅっと噛みしめた。




