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移動商人の私が、嫌われ者のお姫様に転生してしまった件  作者: なずな
レグラント王国:市井編

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第22話 不可侵の森

市場で手に入れた魚をふるまう為、アルキオネ宮にライオネルを呼んだレティシア。

しかし思わぬお客様も一緒についてきてしまって、3人で食事をすることに…

レティシアは目の前に置かれた料理をそっと見つめる。

魚をいろんな野菜と一緒に煮込んだ優しい味のスープで、市井でよく食べられる"プッサスープ"という料理だ。


優しい味だがハーブでよく香り付がされていて、食欲を刺激してくる。

食べるとほっとするような味で、大勢で囲んで食べることも少なくない。


ライはこの料理が大好きだった。

簡単に作れるし食いしん坊のミーナもたくさん食べられるからなんて言っていたが、普段はミーナに多くくれる食事も、この料理だけはちょっぴり自分に多めに注いでいた。


懐かしい料理を口にしたレティシアは、自然と表情がほころんでいた。

ライオネルがその様子を見つめている事にも気が付かないほどに。


テオドールはあっという間に平らげて、満足そうな顔を浮かべている。

どうやら彼もミーナに負けず劣らず食いしん坊なようだ。


全員が食べ終わると、ハンナと他の厨房勤務の侍女たちが机の上を片付けていく。

クリスタもハンナについていった。

おそらくおこぼれを貰うつもりだろう。



暖かな食事の時間が終わり、部屋には再び混沌の空間が戻ってきた。


そんな空気の中、ライオネルが口火を切った。


「それで、なにか良い案の一つでも浮かんだのか?」


―どう切り抜けるか…


市井から帰る道すがらも、戻ってきてからも、頭をフル回転させ続けていたが、レティシアには何の案も浮かんでいない。


原因が分かっていても解決できるとは限らない。


ただ、一つ原因が分からない謎もあるが。


レティシアは3歳児なりのとびきりかっこいい顔つきをした。


「レティには何も思い浮かびませんでした!」


あまりにも堂々と言い張ったため、ライオネルは鳩が豆鉄砲を食ったように驚いて固まっている。


「兄さま、なんのはなし?」


話の流れも事情も分かっていないテオドールが、口元に着いた食べかすをクロードに拭き取られながら尋ねた。


ライオネルが静かに咳払いをする。


その後、テオドールにも分かるよう、端的に今までの話を要約して伝えた。




「そんなのこんなチビにできるわけないよ!」


全てを聞いたテオドールは椅子から勢いよく立ち上がりながらレティシアを指さした。


「だって、兄さまだって苦労して…」


途中まで何かを言いかけたテオドールは、自分の失言に気づいた様子でとっさに口を両手で隠し、続きを言うのをやめた。


ライオネルはふーーとため息をついた。


「そうだ、お前が市井で目にしてきたこの国の問題は、皇太子である私が解決すべきことだ。試すようなことをして悪かった」


ライオネルはレティシアの目を見て言ったあと、ふっと視線を斜め下にそむけた。


―あの、皇太子(ライオネル)が誤った!?


レティシアは動揺して内心バクバクだった。


想像していなかった返答に頭の処理が追い付かない。


―でも待てよ、ここで終わったら、私(レティシア)は市井に出る口実を失うのでは?!


それではだめだと、レティシアは頭を左右にぶんぶん振る。

ライオネルにはその様子は見えていないようだ。

テオドールは猫が動くおもちゃを追いかけるように目で追っている。


「レティにも、何かできることが無いでしょうか?」


レティシアの真剣なまなざしの提案に、ライオネルは再び彼女へ視線を向ける。


「気づいたことはあったか?」


彼の口調からはいつもの冷酷な覇気は感じられない。

どこか無気力のような。


―森の動物の事…


「一つだけ気になって…市場の近くの森の動物たちが増えた話が、どうして増えちゃったのか分からなくて…」


レティシアはおそるおそる話す。


ライオネルは表情を変えずに答える。


「それが、一番解決できない事なんだ」


そう言うと後ろに立っているマリアンヌに視線を向けた。


「レグラント王国近辺を含む、王国地図をすぐに持ってこれるか?」


「承知しました」


マリアンヌは小走りで部屋を出ていった。


数分後にマリアンヌが大きな紙をもって帰ってきた。


「ギル」


ライオネルはギルバートに開いてみせるよう声だけで指示する。


ギルバートがマリアンヌの方へ近づき、彼女の持っている紙を受け取ろうとしたとき、お互いの指先が少し触れた。


驚いて飛び上がったマリアンヌは、その拍子に持っていた紙を落としてしまう。


「申し訳ございません」


慌てて頭を下げるマリアンヌ。


「おいギル、何やってる」


「ごめんなさい殿下~」


ギルバートはライオネルにしょんぼりした顔で謝りながら、紙を拾い上げて全員に見えるように広げて持った。


ライオネルは椅子から立ち上がり、地図の前に立ってある場所を指さした。


「ここ、王国の東の国境線沿いに広がっている大きな森、ここが何か分かるか?」


―そこは…


「はいはい!エルフの森です!」


テオドールが片手をあげながら身を乗り出して答える。


「エルフの森は"不可侵の森"だ。何人たりとも入ることは許されない。入れば彼らの敷いている広域魔法陣によって出口が分からず彷徨い、一生を森の中で暮らすことになるだろう」


ライオネルは前で腕を組みながら淡々と述べる。


エルフ。

女神さまがこの大陸を作った時に、最初につくったとされる種族のうちの一つ。

彼らは人間のように、限られた者だけが一人一種類の魔法を使えるのとは違って、全員が魔法を使うことができる。


魔力量も人間とは比にならず、複数の魔法を使うことが可能だ。


そして彼らは太古から他の種族と交流を持たない。

エルフの森でひっそりと暮らしている。

寿命も1000年以上あるとも言われる。


ライオネルは片足で床をトントンと叩きながら、少し渋い表情で地図へ目線を移した。


「問題なのは、市場の東の森は途中からこのエルフの森と繋がっていて、増えた動物たちはエルフの森から来ていると考えられることだ」


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