第21話 混沌の食事会
王妃エレオノーラに呼び出され、主殿に足を運んだライオネル。
第2王子のテオドールにアルキオネ宮に行っていたことがばれ、泣きつかれてしまうが…
レティシアは自室のベッドにお忍び服のまま突っ伏して足をばたつかせていた。
「姫様~いい加減お着換えしませんと~」
アルキオネ宮に帰ってくるなりずっとこの様子で過ごしているレティシアを、エマが洋服片手に困り顔で見つめる。
―あああどうしよう、何にも思いつかない~!!
市場で手に入れた魚を使って、ライオネルの機嫌を取ろうと呼び出したのは良いものの、貧困問題について詰められた時の返し方が思い浮かばず、レティシアは焦っていた。
―このまま食事だけして解散とか無理だよね
「姫様~失礼しますよ~」
エマはバタバタと動くレティシアをひょいっと担ぎ上げて、あっという間に着替えを済ませた。
そしてそのまま鏡の前に座らせると、レティシアの髪を梳かしはじめる。
レティシアはエマにされるがままに身を任せながらずっと考え込んでいた。
すると何やら廊下を慌ただしく走って来る音が聞こえてきた。
「ちょっと!なんで王子も付いてきてるんですか?!走らないでくださいよ!」
「じゃあクリスタも走らなければいい!なんでオレが来たら慌てるんだよ!」
とても騒がしい声が聞こえてきたかと思えば、次の瞬間部屋の扉が勢いよく開かれた。
「ここかーー!!」
レティシアもエマも呆れた顔で扉の方へ視線を向ける。
そこには服を着崩して肩を上下させているテオドールと、若干イラついた顔をして髪がぼさぼさになったクリスタがいた。
「テオドール王子、お召し物が崩れていますよ~」
エマは首をかしげながら笑った。
―テオドール王子?もしやレイモンドが言ってた第2王子?!
テオドールはレティシアの事を凝視して固まっている。
レティシアはそんなテオドールと目が合っている為、決まづくなって瞬きが増える。
数秒後、テオドールは膝から崩れ落ちた。
「ずるい…」
テオドールはエメラルドの綺麗な瞳を少し潤ませながら呟いた。
「兄さまと同じ銀髪だあああああああ!」
叫びながら床を両手でドンっと叩く。
そのまま彼は床に向かって叫び続けている。
叫んでいるテオドールを呆れた顔で見ながら入ってきたクリスタが、レティシアに近づきそっとかがんで耳打ちする。
「すみません姫様、お呼びでない方が一緒だったので、すぐに報告に来ようとしたんですけど…」
「大丈夫だよ、クリスタ。ハンナにもう一人分追加できるか聞いてもらってもいい?」
レティシアは再びエマに髪を梳かされながら答えた。
「承知しました!行ってきます」
クリスタは得意げな顔で騎士の真似をして敬礼をすると、足早に部屋を出ていった。
そうしているうちに、エマがあっという間にレティシアの髪の毛を綺麗に結い、きれいな青い花の髪飾りを付けた。
可愛いらしいふわふわの二つのおさげに、レティシアも少し気分が上がった。
テオドールは叫ぶのをやめると、半べそをかきながら立ち上がる。
「おまえ、なんのために、何様のつもりで、兄さまをこんなとこに呼びつけたんだ!」
レティシアを指さしながら言う彼の姿は、さながら侵入者に威嚇する犬だ。
「えっと」
レティシアが返事に困って言い淀んでいると、ここに呼びつけた本命の人物が姿を現した。
「テオ、服がぐちゃぐちゃだ」
ライオネルはレティシアに声をかけるよりも先に、テオドールの襟元を優しい手つきでそっと直している。
―な!
レティシアはライオネルの見たこともない表情に衝撃を受けて固まった。
―あれほんとに同一人物?!氷の皇太子はどこいったのよ?!
「なんだ、みせものじゃない。要件を短く伝えろ」
ライオネルは驚いた顔で自分たちを見つめるレティシアの方を向くと、いつも通りの冷徹な態度で言い放った。
レティシアは心の中で特大のため息をつきながら、3歳の姫の愛嬌のある笑顔で答える。
「お食事を一緒にしたくて」
アルキオネ宮には客間がある。
使われたことは一度もないが。
広くて食事ができる部屋がそこしかないため、エマとマリアンヌが片付けて椅子やテーブルを準備した。
真ん中に細長いテーブルを置き、扉に近いほうからレティシア、その向かい側にライオネル、その隣にテオドールが座る。
テオドールは時折レティシアに猫のように威嚇をしながら、ライオネルには溢れんばかりの熱い視線を向けていた。
王子たちの後ろにはもちろん、それぞれの騎士が立っている。
ギルバートはレティシアと目が合うと、にこりと笑った。
テオドールの騎士は、無表情だが背筋を整えて立っている。
レティシアの後ろにはマリアンヌ、そしてドア付近にはエマが立っていた。
王子たちと姫が生まれて初めて一堂に会した瞬間だが、雰囲気は混沌としている。
混沌とした空気を破るように、クリスタが元気な声でやってきた。
「お待たせしましたー!」
ハンナと一緒に食事を運んできたようだ。
間に合ったようで、3人分用意されている。
ハンナとクリスタが3人の目の前に食事を運んでいく。
運ばれてきた料理を見て、ライオネルの眉がピクリと動いた。
「えー!これ!兄さまの好物だー!」
テオドールは嬉しそうに笑いながら、キラキラした目で料理を見つめた。
―そうなんだ、兄さんと一緒…
レティシアははしゃぐテオドールを横目で見ながら、ライオネルに視線を向けた。
彼は料理をじっと見つめていて動かない。
「たまたま残っていた物を買えたので、量は少ないです…」
レティシアはおそるおそる口を開く。
「どうしてこの料理を、魚料理はほかにもある。クリスタに聞いて私のご機嫌取りでもしようとしたか?」
ライオネルは料理を見つめたまま、レティシアと一切目を合わせず聞いた。
―クリスタ、ライオネルともう話したんだ
レティシアはちらりと視線だけをクリスタに送る。
クリスタはそっとうなずいていた。
クリスタの過去の話やライオネルとの関係の話をレティシアに話したこと、その上で侍女としてアルキオネ宮に残りたいという彼女の想いを、どうやらもうライオネルには話したようだ。
彼女が変わらず侍女としてここにいることが、ライオネルの出した答えだろう。
ピリピリとした沈黙の中で、テオドールが待ちきれないという様子でよだれを垂らしている。
その様子に気づいたライオネルは、小さく息をついてからカトラリーに手を伸ばした。
「食べたら本題に入る、私相手に誤魔化しはきかない」




