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移動商人の私が、嫌われ者のお姫様に転生してしまった件  作者: なずな
レグラント王国:市井編

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第18話 廃れた市場の謎

レティシアはヴァレリアから市井に関する情報を買った。

そこにはある場所の記載が。一行はロスト商会を出てその場所へ向かう。

レティシア達はロスト商会を出た後、再び人々のにぎわう露店街を通り、レンガ造りの建物が途切れる少し開けた小道に出た。

所々に樹木が生えており、なだらかな道が続く。

道に沿って奥手に森が見える方角へ進んだ。


―こっちは確か…


「姫様、もうすぐ着きますよっ」


クリスタが先導して歩き、前を指さしながら振り向いた。

マリアンヌはレティシアの隣を離れないように気を付けて歩いている。


ヴァレリアから貰った情報の場所には、海で捕れた食材の競りが行われている市場がある。

建物は特になく、地面の上に露店がいくつも並べられている場所だ。


レティシアは肉料理の方が好きだが、兄(ライ)はレグラントの新鮮な魚料理を好んで食べていた。

よく一緒に魚を買いに来ていた風景を思い出しながら、レティシアは少しだけ足を速めた。


「あれえ?クリスタじゃねぇか。どうしたその頭?」


いくつも箱を抱えて、市場の方へ運んでいた男性が話しかけてきた。


「あぁ、おっちゃん。ちょっとばかし下手うっちまって、大したことないから気にすんな」


クリスタは自身の頭に巻いた包帯を軽く手で搔きながら明るく答える。


「そちらさんは?」


男性はフードを深く被ったレティシア達に目を向ける。


「あたしの新しいご主人様!」


クリスタは八重歯をにかっと見せて笑った。


「そ~かい、良かったなぁ~」


男性は豪快に笑いながら嬉しそうな顔をした。


―ロストフォロの屋台の時も思ったけど、クリスタってみんなに好かれているよね


レティシアはクリスタと男性のやり取りを見ていて、なんだか心があたたかくなった。


「でも今日は何用でぃ?残念だが今日もいいもんは届いてねぇよ」


男性は申し訳なさそうにため息をつく。

どこか諦めた表情をして持っていた箱を地面に置いた。


レティシアはマリアンヌのローブの裾をくいっと引っ張る。

マリアンヌがかがんでレティシアの方へ耳を向けた。

両手で口元を隠しながらレティシアがマリアンヌに耳打ちすると、マリアンヌが男性の方を見て答える。


「兄がどうしても魚料理が食べたいと言うので、すぐ仕入れられるここを見て回りに来ました」


男性は顎を手でさすりながら困った顔をした。


「見て回ってもなぁ、お気に召すものがあるかどうか…」


そう言いながら地面に置いた箱を持ち上げると、ぺこりと挨拶をして男性は市場の方へ歩いて行った。




―確かにそもそも全然品物が無い


市場に足を踏み入れたレティシア達は、端からゆっくりと全ての品物を見ながら歩いていた。


ミーナの記憶では、この市場はいつもにぎわっていて数えきれないほどの海の食材が並んでいた印象だった。

質もとても良い上に安く仕入れることができ、レグラントの王都で魚を買うなら絶対にここだとライは一度も妥協したことが無い。


そんな賑わっていた市場の記憶は見る影もなく、商品を出している露店が少ない上に品物の質もどこか落ちており、人々にも活気がみられない。


「ねぇ、クリスタ。ここはいつからこんな感じなの?」


レティシアは数歩前を歩くクリスタにそっと話しかけた。


「そうですね~、たぶん2年くらい前ですかね」


クリスタは首をかしげながら答える。


―2年前ということは、私(レティシア)が生まれたこととは関係が薄いのかな…


レティシアの母のせいで王国の経済が悪化したことはレティシア自身も理解している。

その状況で1年頑張ったが市場に限界が来たということなのか、それとも何か別の要因があるのかとレティシアは片手を口に当てて考えた。


考えながら歩いて回っている中で、ふと一人の女の子にレティシアの目がとまった。


海のようにきれいな青い眼をしたその女の子は、薄ピンクの髪の毛を耳の上で綺麗にお団子二つにしてまとめていた。

そんな可愛らしい見た目とは裏腹に、表情はとてもふてぶてしく、机に片手をついて頬を乗せながら座っている。


レティシアはその子が売っている品物に目を向けた。


魚は少し生臭く、下手をすると数週間経っているのではないかと思われた。


「いらっしゃいませー」


女の子はけだるげにレティシアを見て呟いた後、彼女の隣の人物をみて驚いて立ち上がった。


「クリスタちゃん?!どうしたのその頭!」


「やっほーアリス~、ちょっと下手うっちまっただけだよ」


クリスタは手をひらひらしながら笑って答えた。


「えっと、お客さん?」


クリスタに気が付いたあと、そのアリスという少女は、さっきまでの表情が嘘かのように明るい表情になった。

声色もさっきより少し高い。


―この子、営業モードね!!


レティシアはそんな営業モードのアリスを見て、ミーナが幼い頃は愛嬌だけでモノを売りつけていたことを思い出し、同族嫌悪を感じて身震いした。


「今日、魚料理に使う食材探してんだ。アリス、父ちゃんは?」


クリスタが率先してアリスと会話をする。


「お父さんはまだ海だよ~、2週間は帰ってきてないなぁ~、私もお腹いっぱい魚食べたいよ~」


アリスは口をあんぐり開け、両手を前に伸ばしながら机に突っ伏す。


クリスタはレティシアにそっと目線を送る。


「アリスというのね。少し聞いてもいい?」


アリスは顔を上げるとレティシアを不思議そうに見た。


「ずいぶん小さいお客様ですね。どうしましたか?」


「どうしてこんなに品物が少ないのかなって、今日だけとか?今の時期だけとかなの?」


レティシアの質問を聞くなり、アリスは大きなため息をついた。


「ここ2年はずっとこれですよ、もう商売あがったりですです」


そしてまた唸りながら机に突っ伏す。


「どうしてなのか理由はわかる?」


レティシアは優しく尋ねる。


再び顔を上げたアリスはふてぶてしい顔に戻っていた。


「フェルドからの難民のせいと、東の森から動物が市場に忍び込んでくるようになったせいだと思います」


―フェルドの難民?フェルドって、フェルディナンド公国のこと?


アリスから急に飛び出した情報に、レティシアは驚きを隠せなかった。

フェルディナンド公国はミーナがライと一緒に目指していた最後の場所だ。

動揺する気持ちを必死に抑えながら、レティシアはマリアンヌのローブを引いた。


マリアンヌがかがんでレティシアに耳を向ける。

レティシアはマリアンヌの耳にかぶりつくような勢いで顔を寄せた。


「マリアンヌ、フェルドって?」


質問を聞いたマリアンヌが今度は逆にレティシアの耳に口を近づける。


「レグラント王国の北にある、ガルディニア帝国領のことです」


―ガルディニア帝国領??!そんな、どういうこと…


マリアンヌの回答を聞いたレティシアは、自身の想像の上を行く情報に思考が止まり、左手を右手でぎゅっと掴んだ。

彼女の小さな額には少し汗がにじむ。


レティシアは動揺を隠せず、しばらくの間黙って俯いていた。


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