第17話 決意の誓い
レティシア達はクリスタの身の上と事情を聞き共に泣いた。
彼女の真っすぐな心を感じたレティシア達はこれから…
どのくらい時間がたっただろう。
3人は一通り泣いた後、レティシアとクリスタはお互い向かい合ってベッドに寝ていた。
二人の頬には涙の跡ができていた。
マリアンヌは二人にそっと布団をかける。
「マリアンヌ様」
いつのまにか扉に立っていたヴァレリアが話しかけた。
「少しお話よろしくて?」
ヴァレリアは最初の酒場のような部屋にマリアンヌを案内すると、カウンターに座らせその隣に腰かけた。
タイミングを見計らったように、カウンターの奥から見知らぬ若い男が飲み物を二つ持ってきて二人の目の前に置いた。
「どうぞ」
ヴァレリアがマリアンヌに微笑む。
「私、お酒は…」
「ご心配なさらず。そちらはレモン水ですわ。フェルド産の」
「では、少しいただきます」
マリアンヌはグラスを両手で抱え、おそるおそる口を付ける。
そして少し口にした後、思わず口をすぼめた。
マリアンヌの反応を見てヴァレリアはくすりと笑う。
「姫様はお好きでしょうから、うちから卸すようにいたしましょうか?」
「それは…」
マリアンヌは両手を振りながら慌てて答えようとする。
「マリアンヌ様、単刀直入にお伝えしますわね」
ヴァレリアは答えようとしたマリアンヌに割って入るように言うと、真剣なまなざしで彼女を見つめる。
「姫様のお使いになった魔法について。そして私の魔法についても、他言無用でお願いしますわ」
「わかりました」
マリアンヌはふたつ返事で返した。
彼女の表情に驚きや焦りの色は一つもない。
真っすぐな答えだった。
ヴァレリアはマリアンヌが即座に了承したことに、とても驚いた様子だ。
「知りたいとお思いにならないのですか?」
驚いた様子で前のめりになるヴァレリアを見ながら、マリアンヌは柔和に笑った。
「私、あまり人の心に踏み込みすぎないように気を付けているんです。それに、私を信頼してくださっているなら、いつか姫様からお話してくださるはずですので」
穏やかな笑顔を浮かべたまま、マリアンヌは目の前のグラスをじっと見る。
「いい人に恵まれたのね、ミーナは」
ヴァレリアはほっとした様子で呟いた。
「え?」
「いえ、お気になさらず。ひとりごとですわ」
―寝ちゃったな。この体はまだ3歳だし、疲れやすいのかな
レティシアはぼーとしながら起き上がって目をこする。
周りを見まわすと、マリアンヌもクリスタもいない。
部屋を出て最初の部屋の方へ向かう。
「姫様!お目覚めですね!」
すっかりいつもの様子のクリスタが、飛び跳ねながらやってきて、レティシアの手を引く。
最初の部屋には、レティシア以外の全員が揃っていた。
ヴァレリアが最初に口を開く。
「さて、そもそも姫様は、何をしに市井へいらしたんでしたか?」
―すっかり忘れてた!
レティシアの隣で、クリスタが何やらもじもじしている。
「どうしたのクリスタ?」
様子に気づいたレティシアは、クリスタの顔を覗き込んだ。
「あの~姫様…」
クリスタは視線を様々なところに目まぐるしく変えながら体をくねらせた。
「言ってみて」
レティシアは彼女の顔を覗き込みながら頬を膨らませる。
「さっき話した通り、あたし殿下から言いつけられてたことがあってですね…」
クリスタはレティシアの事をちらりと見ては視線をそらし、それを何度も繰り返しながら話し始めた。
「うん」
レティシアは相槌を打ちながらクリスタに一歩近づく。
「どうせ一回のお忍びで分かることなんてないから、おまえが上手くロスト商会に誘導して、あねさんから情報を買わせろって言われました」
クリスタは目を瞑って勢いに任せ一気に言い終わると、気まずそうな顔でレティシアの顔をうかがった。
眉間にしわを寄せながら何とも言えない顔をしているレティシアと、気まずい顔のクリスタの目線が噛みあう。
二人はそのまま固まり、数秒の沈黙が流れた。
沈黙に耐えられなくなったヴァレリアが、思わず口に手を当てながら吹き出して笑う。
「あねさん!」
クリスタがヴァレリアの方を見て恥ずかしそうに叫んだ。
「ごめんなさいクリスタ、あまりにそのまま言うものだから、ふふ」
ヴァレリアは笑いが止まらず、片手で口を上品に押さえながらもう片方の手で隣に立っているダグラスをバシバシと叩いている。
ダグラスは無表情でびくともしない。
―くーーライオネルめ…、レティの事をなめやがってぇ
レティシアは内心ライオネルへの憤りに震えながら、表情はにっこり笑顔に戻っていた。
「じゃあしょうがない。レティは今回殿下のお遊びにのってあげる!」
レティシアは両手を腰に当てて堂々と言い放った。
「姫様、私たちの商会は高いですわよ」
レティシアの宣言を聞いたヴァレリアが不敵な笑みを浮かべた。
マリアンヌが慌てた様子で椅子から立ち上がる。
「姫様!アルキオネ宮にあまりお金は…」
「大丈夫だよマリアンヌ!足りないなら殿下に借りればいいんだよ」
レティシアは愛らしいお姫様とは思えない不敵な笑みを浮かべながら言った。
マリアンヌもクリスタも、レティシアの提案に驚いた様子で固まった。
「レティがヴァレリアから買った情報で、うまくいけばみんなも暮らしやすくなって嬉しいでしょ!でもこれって、将来王様になる殿下がやることなんじゃない?それをレティたちがやるんだから、殿下からお金を借りてもおかしくないよね!」
レティシアはにやりと笑いながらヴァレリアを見た。
ヴァレリアは目を少し細めながら柔和に笑うと、
「交渉成立ですわね。では代金は私から殿下宛につけておきますので」
そう言って折りたたまれた紙をレティシアに渡した。
「これはなに?」
ヴァレリアから差し出された小さな紙を、レティシアは受け取りながら開いた。
「そちらが情報ですわ。そこに書かれた場所に行ってみれば何かわかると思いますわ。聡明な姫様なら、難しいことではないはずです」
ヴァレリアはにこりと笑いながら首を傾げた。
―やっぱりこの人一筋縄ではいかない…
レティシアは引きつった作り笑いで感謝を述べた。
「ありがとう」
レティシア達が商会を去った後、ダグラスがおもむろに口を開いた。
「殿下になんと報告するんです?お嬢」
「私の仮説が合っていたと確信しましたわ」
ヴァレリアの表情は見えない。
「なら…」
「いいえダグラス。ミーナの事は秘密にしておきなさい。簡単に答えが手に入っては、面白くないでしょう?」
ヴァレリアは目を細めながら口角をあげて笑った。
ロスト商会は、露店街からかなり離れたところの入り組んだ地下にあった。
クリスタが先頭になり階段を上る。
ずっと暗い地下にいたため、次第に明るくなる太陽の光がまぶしく、レティシアは片手で日差しを遮った。
階段を全て登り終えたところでクリスタが振り向いた。
眩しい太陽を遮り、レティシアの視界は光に後ろから照らされたクリスタの顔で埋まる。
「姫様、あたし姫様の事も殿下の事も大好きです。自分に嘘はつけません。だからあたし、姫様にも殿下にもホントのことを話します。それでもし、アルキオネ宮の侍女じゃなくなっても、そばにいられなくなっても、あたしはずっと姫様の味方です」
クリスタは真剣なまなざしでレティシアに伝えた。
「うん、レティも」
レティシアは笑って答えた。




