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移動商人の私が、嫌われ者のお姫様に転生してしまった件  作者: なずな
レグラント王国:市井編

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第16話 家族

レティシアとマリアンヌは、クリスタから話を聞くために、彼女のいる部屋へ入った。

レティシアとマリアンヌは再びクリスタのいる部屋に入った。

レティシアは先ほどと同じようにクリスタの隣に腰かけ、マリアンヌも近くの椅子に座った。


「姫様、申し訳ございませんでした」


クリスタは真面目な顔つきで深々と頭を下げた。


レティシアは彼女の肩にそっと片手を置く。


「レティ、クリスタが無事でうれしいよ」


クリスタは顔を上げない。


数秒間の沈黙が部屋に流れる。


「あたしは、姫様の侍女を辞めます…」


クリスタは頭を下げたまま、震える声でそう言った。


レティシアは彼女の言葉に胸を締め付けられながらも、ぐっとこらえて優しくクリスタの手を握った。


「どうして?クリスタがいないとレティ、寂しいよ」


クリスタは顔をあげて涙いっぱいの目でレティシアを見つめた。


「姫様は、どうしてあたしを怒らないんですか」


レティシアは涙が出そうになる自分を隠しながらそっと笑った。


「確かに、レティの言うこと聞かずに飛び出していったのは、良くないかも」


そしてクリスタの目を優しく見つめる。


「クリスタは、もうレティにとって、大事な家族だよ」


「家族…」


その瞬間、クリスタの瞳から溜めていた涙がボロボロと零れ落ちる。


「姫様っ、あたしっ、話さなきゃいけないことがっ」


嗚咽しながらクリスタは話し始めた。




あたしは、生まれた時から一人ぼっち。


親に捨てられた、孤児ってやつ。


物心ついた頃には、盗み食いをしたり、盗んだものを売ったりして生きていた。


人よりも走るのが得意みたいで、捕まったことは一度もない。


名前が無いから、"栗毛のガキ"なんて呼ばれていた気がする。


5歳くらいになった時、"用心棒"というやつの方が金が稼げることに気づいた。


でも誰も、5歳のガキを使う奴なんていなかった。


だから嘘ついた。


幼く見えて実は12歳なんだぜ、なんて。


さすがに15歳は盛りすぎでバレるかもって思って。


王国の法ってやつをちゃんとしてない、荒くれものの商売をやってる奴なんかは、


用心棒を正式に雇えねぇから、こんなあたしを雇ってくれる奴も多かった。



3年くらいしてるうちに、そういうやつらの間では結構有名になって、


安く裏で強い用心棒を雇いたいなら「栗毛のガキ」って言われるようになった。


自分でも驚くほど戦いに強くて、どんな屈強なやつもねじ伏せてきた。


でも、そうやって調子に乗ってた8歳の時、


あたしは5歳のガキにボコボコにされた。


このくそみたいな国の"皇太子"ってやつ。


悔しくて大泣きしてるあたしを、そいつは自分の商会の正式な用心棒になれって言ってきた。


負けた相手に、そんな情けをかけられるくらいなら殺せって言ったけど、


そいつは全くぶれない瞳で、これは命令だって言ってきた。生意気だと思った。


それがライオネル殿下とのはじめての出会い。


名前を聞かれたけど、あたしに名前はなかったから、その時殿下があたしに名前をくれた。


その日からあたしは、ロスト商会の用心棒"クリスタ"として、


商会の表向きの仕事を請け負うようになった。


実際、商会の用心棒たちの頭は、ダグラスのおっちゃんで、あたしは商会の主人であるヴァレリアのあねさんに言われたことをこなしてた。


買い物行ったり、表を歩ける客の護衛をしたりとか。


足が速かったし、小さくてぶつからねぇから、買い物は特に褒められてたな。


殿下に会うのは、あねさんの手紙を城に持っていく時くらい。


殿下はあんなんだけど、あたしのことをすごく気にかけてくれていた。


見た目は冷たくても、心はあったかい人だと思った。


あねさんも、あたしのこと娘みたいに可愛がってくれて、


ダグラスのおっちゃんは、あたしに稽古をたくさんつけてくれた。


あたしにとって、ロスト商会は大事な居場所になった。



だけど、3年くらいたってからだんだん殿下の顔が暗くなって、


国のみんなもお金や働くところが無くなってきて、


あねさんもおっちゃんも、みんな険しい顔してた。


王様が、側室の女の人にお金をたくさん使ってるからとか噂されてて、


そしてあたしが12の歳に、姫様が生まれてから殿下は変わってしまった。


商会に関する大事な事全てをあねさんに譲って、


たまに手紙のやり取りをするくらい。


届けに行った時も、あたしの顔を全然見ないし、会話もない。


すごく寂しかった。


あたしには"家族"ってもんがなかったから、


みんなの事がすごく大好きだったし、


家族がいたらこんな気持ちなのかなって思ったりしていた。


それから同じように3年の日々を過ごして、


突然殿下からあたし宛に手紙が来た。


姫様の侍女として、アルキオネ宮にあがれって言われた。


とにかく侍女の業務を言われたとおりにやればいいって、


何かあればあねさんに報告しろって。


その後すぐ、殿下が商会にエマを連れてきてみんなに紹介してから、


エマと二人でアルキオネ宮に向かった。




全てを話し終わるころには、クリスタの涙も止まっていた。


正直レティシアは、ライオネルが配置してきた人物が、ただの侍女ではないだろうことは予想していた。

あんな言葉を投げかけてきた相手が、何も考えずに侍女を配置してくるとは思っていない。


だがレティシアはクリスタがライオネルのスパイであったことに憤りを全く感じず、彼女が話してくれた彼女の居場所について共感し、胸の奥が締め付けられた。

家族への想いは痛いほどわかる。

生みの親を知らないことも、血の繋がりが全てじゃないことも。


ミーナもライとは血が繋がっていなかった。

ライから言われたことは無かったが、ミーナにもそのことは分かっていた。

それでも確かに、妹(ミーナ)と兄(ライ)の間には、かけがえのない絆があった。


「あたし頭良くないから、そのスパイってやつ…よくわからなくて、最初の頃はあんまり姫様の事良く思ってなくて…」


再び話し始めたクリスタの目に、たくさんの涙が溜まっていく。


「でも、姫様見てたら、分からなくなってっ」


嗚咽しながらクリスタは続ける。


「あたしバカだから、姫様が悪い子なんて思えなくて、マリアンヌ様もあったかくて、、アルキオネ宮のみんなみんなあったかくて!」


クリスタの顔はもう涙でぐしゃぐしゃだった。


「大好きになってたから!あたしのせいで姫様たちを危ない目に合わせて!もうそばにいられないって思ったんです!」


クリスタの素直で真っすぐな叫びに、自然とレティシアの目からも涙がこぼれる。


マリアンヌも微笑みながら、静かに涙を落としていた。


「でも、姫様たちも殿下の事も大好きだから、あたしはどうしたらいいんでしょうか」


そこまで言い終わると、クリスタは再び大きな声をあげて泣き始めた。


レティシアも涙を流し唇を噛みながら、クリスタをぎゅっと抱きしめた。


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