第14話 大物との対峙
謎の不気味な少女との対峙から救ってくれた謎の女性に案内されたレティシア達。
彼女はロスト商会のヴァレリアと名乗った。
「改めまして、ようこそロスト商会へ。私は主人のヴァレリアと申しますわ」
女性は片手を肩にそっと添えながら、レティシアに丁寧にあいさつをした。
―ロスト商会…聞いたことが無い名前だ
ライは勿論のこと、ミーナもレグラント王国の商会の名前は大体把握していた。
レティシアは聞き覚えの無い商会の名前に訝しげな表情になる。
商売をするのにわざわざこのような地下に隠れた場所に店を構えるとは考えられない。
おそらく表向きではない商売をしている商会のようだ。
ミーナは真っ当な商人であったので、ロスト商会が正式な商会でないならば知らない名前でも納得がいく。
レティシアが頭をフル回転させて思考に集中していた時、隣でばたんっと誰かが床に倒れる音がした。
どうやら、そばにいたマリアンヌが心身の限界を迎え、気を失って倒れてしまったようだ。
「マリアンヌ!」
レティシアは慌てて椅子から立ち上がり、倒れ込んだマリアンヌに駆け寄る。
マリアンヌの額や頬には汗がにじみ、レティシアがおでこに手を当てると少し熱い。
「姫様、落ち着いてください。彼女もダグラスに運ばせますわ」
女性は落ち着いた表情でそう言うと、右手の親指と中指を合わせて音を鳴らした。
すると先ほどの屈強な男が奥の扉からぬうっと姿を現し、倒れたマリアンヌを紙でも拾うかのように軽く持ち上げ、お姫様抱っこのまま奥の扉へ運んでいく。
部屋にはヴァレリアと名乗った女性とレティシアの二人きりになった。
「姫様、何か聞きたいことはございますか?」
ヴァレリアはゆったりとした笑みを浮かべる。
―この人、心が読めない
レティシアは焦りを感じていた。
最初に対面した時からただモノではない様子を感じ取っていたが、今まで出会った中で一二を数えるほどのやり手だ。
小さな一言で足をすくわれると、ミーナの商人の感がビリビリと感じ取っている。
「あなたはあの女の子の事を知っているの?」
「どうぞヴァレリアと呼んでくださいな」
レティシアのいきなりの質問にも、ヴァレリアは全く動じず飄々と答える。
「そうですね、とてもよく知っていますよ」
レティシアはこんなに緊張する会話ははじめてだった。
いつもこのような大物の相手は、ミーナではなくライがやっていた。
レティシアは少しだけ、前世の兄へ頼りきりだった態度を恨んだ。
「仲間ではなさそうだね」
「そうですね」
ヴァレリアはにっこりと笑う。
「あなたは、魔女なのにどうして商会をやっているの?」
レティシアの次の質問を聞いて、ヴァレリアの黄昏色の瞳がギラギラと揺らぐ。
「それはとても個人的な事なので、簡単にはお答えできかねますわ」
相変わらず感情は読めないが、どこか無機質な声色だった。
レティシアはこの大物の綻びを見つけたと感じて、さらに踏み込む。
「協会はあなたのことを認識しているの?」
「姫様、私に関する情報は、うちの商会では最も高い商品です」
ヴァレリアはレティシアの質問に間髪入れずに答える。
ゆったりとした笑みは壊すことなく、ギラつく瞳だけでレティシアを牽制していることが感じられた。
―これ以上は、踏み込めそうにないか…
魔法は基本的に血族固有のもので、人間は王族しか使えない特別なものである。
この大陸を最初につくったとされる女神さまが人間という種を作った際に、それぞれの地を納める3人の長に魔法を与え、彼らが代々王族として土地を守っている為だと言い伝えられる。
このレグラント王国の王族特有の魔法は氷魔法。
ライオネルはおそらく、氷魔法の使い手だろう。
例外として、王族以外に魔法を扱う人間がいる。
それが、魔女や魔法使いと呼ばれる者たち。
女神さまへの信仰を守っている、大陸共通の組織である「大陸協会」が、信仰への厚さや適性を認めたものに限って魔法を与えているらしい。
与えられる魔法は様々だが、魔女や魔法使いとなった者たちは各国に存在する教会で、もれなく牧師として教えを説いている。
レグラント王国にも教会がいくつかあったはずだ。
ヴァレリアは明らかに"私の魔法"という単語を口にした。
さらに彼女があの不気味な少女から身を隠した方法は、水魔法の応用のように思える。
ヴァレリアは魔女だが、教会で説法をせずに商会を営んでいる不思議な存在というわけだ。
「あの子は、なんなの?」
ヴァレリアの事に関してはこれ以上踏み込めないと判断したレティシアは、あの不気味な少女へ話題を戻す。
「それはあまりにも漠然とした問ですわね」
ヴァレリアはくすりと笑った。
「特別に、面白いものを見せていただいたのでお教えいたしますわ」
―やっぱり見られていたようね、私の…
自身の秘密を見られていたと分かったレティシアの額に焦りの汗がにじむ。
「あれは、少女なんかではありませんわ。化け物です」
ヴァレリアは先ほどまでの笑顔から打って変わって真面目な表情になり、淡々と語り始めた。
「レグラント王国の王都付近一帯の大陸協会を統括する使徒、レクィア。幼い少女のような見た目をしていますが優に100歳は超えているとか…」
―使徒って、大陸協会の一番偉い人たち?だっけ…
正直なところ、移動しっぱなしのミーナは"大陸協会"についてよく知らない。
「使徒としてのナンバーはセクンダ。2番目ですね。最悪な性格で、離反者には自ら手を下さないと気が済まないほどのサディスティック。あの男は大方、なにかやらかしたのでしょう。レクィアは普段は王国にはいませんから、よっぽどのことでしょうけれど」
レクィアについて語る彼女の瞳は、ゆらゆらと怒りの感情がこもっているように見えた。
「姫様は、大陸協会についてあまりご存じないようですわね」
ヴァレリアは再びにこりと笑いながら言った。
―協会とは関わらないようにと兄さんは言っていた
理由は分からないが、ミーナは大陸協会や自身の持っていた魔法について聞こうとすると、ライは決まって険しい顔をして話を中断した。
「ではなぜ、自分が光の魔法を使うことができるのかも、一切ご存じないということですわよね」
レティシアの表情が一瞬で固まり、血の気が引いていく。
不気味な少女の話をしていたはずが、いつの間にか自身の秘密に踏み込まれていたレティシアは、思考も止まり身をすくめながら左手を右手でぎゅっと掴んだ。
ヴァレリアは一瞬目を細めながら笑うと、レティシアに近づきその手を両手でそっと包んだ。
そして彼女の耳元でそっとささやく。
「光の魔法は使ってはいけないと、ライから言いつけられていませんでしたか?ミーナ」




