第13話 衝撃の出会い
露店街を歩いていたレティシア達。突然人込みから出てきた謎の男とぶつかりそうになり、クリスタが男を追ってどこかへ行ってしまう。クリスタをレティシア達も追いかけるのだが…
レティシアとマリアンヌはクリスタを追って、人でにぎわう露店街から人通りの少ない薄暗い道を走っていた。
―こっちに行ったと思ったけど、見失っちゃったな
入り組んだ細い道が続く王都の市井では、クリスタの姿をすぐに見失ってしまった。
どの方角へ進めば良いか分からず、二人はその場に立ち止まる。
「姫様、やはり戻りましょう」
マリアンヌが肩で息をしながら不安そうな顔をしている。
ーなんだか胸騒ぎがする
「もう少しだけ探してみよう?」
レティシアは自身の感じる得体のしれない胸騒ぎから、クリスタを探さずにはいられなかった。
あんな人込みの中をわざと通り、まるで誰かから逃げているかのような男の様子が引っ掛かっていた。
現在のレグラント王国の経済状況は悪い。
そのため窃盗やスリなどの犯罪が増えてしまうことは世の流れである。
しかしあの男の血相からは、レティシアはそれ以上の何かを感じていた。
レティシアがマリアンヌに次に行く方向を指さそうとしたその時、彼女たちのすぐ後ろの通りから、何か硬くて大きなものがぶつかり、壁が壊れるような爆音と粉塵が上がった。
レティシアはクリスタの安否を考えると、居てもたってもいられず爆音がした方へ走り出す。
「姫様!いけません!」
急に走り出したレティシアを制止しようとするも間に合わず、マリアンヌも慌てた様子で彼女の後を追う。
レティシアは音がした通りに出ると、その場の光景を見て息をのんだ。
そこには傷だらけで頭から血を流すクリスタと、その近くで倒れている先ほどの男。
そしてクリスタの視線の先には、この状況にとても不釣り合いな少女がいた。
「姫様!」
ナイフを片手に少女と向き合っていたクリスタが、レティシア達に気が付き思わずとっさに振り向く。
その一瞬の隙に、どす黒いワインレッドのツインテールも一緒に揺らしながら、少女が手に持っていた鎖のようなものをクリスタめがけて笑いながら振りかぶった。
レティシア達を見ていたクリスタは、少女の動きを認識するのに一瞬遅れた。
―クリスタが危ない!
このままではあの鎖の先についている大きな鉄の塊がクリスタに直撃してしまう。
レティシアは考えるよりも先に、体がとっさにクリスタの方へ動いていた。
クリスタへ手を伸ばしたレティシアの手から眩い光が放たれ、周囲を覆い隠す。
「ちょっと!なんなのよ!」
ツインテールの小柄な少女は、顔を覆いたくなる強烈な光に思わず顔を背けた。
その動きが鎖に伝わり、当初の狙いから外れた地面に叩きつけられる。
「こっちへ」
光で一帯を覆いながら目を瞑っていたレティシアは、耳元で誰かの声を聞きうっすらと目を開けた。
その瞬間、レティシアの視界は暗転した。
レティシアが再び目を開けると、目の前にはシャープなボブカットに漆黒の髪の毛をした黄昏色の瞳の女性が立っていた。
―二人は?!
目の前の見知らぬ女の確認よりも先に、二人を探そうとレティシアは周りを見渡す。
すぐ後ろに呆然としている様子のマリアンヌと、ぐったりしたクリスタを抱えている屈強な男がいた。
「静かに。私の魔法で隠れているけど、まだあいつは近くにいますわ。そっと私から離れないようについてきてください」
女性は口元に人差し指を当てて笑う動作をした後、着ていたローブのフードを深く被った。
マリアンヌは顔が青白く、今にも倒れてしまいそうだ。
さっきの不気味な少女といい、目の前の得体のしれない女性といい、訳のわからないことだらけでレティシアも頭が全く回らない。
目の前の女性はすぐに危害を加えてくる様子はないため、レティシア達は大人しくついていくことにした。
先ほどの現場には、不気味な少女と倒れている男だけが残されていた。
「おーーい、まだ生きてるよねぇ~」
小さな体に似合わない、少しぶかぶかの黒いローブ。
そして何より彼女の異色さを際立たせているのは、小さな手に握られた鎖のようなもの。
先端にはトゲの付いた金属の球体がついており、血がびっしりとこびりついて変色していた。
ツインテールの少女は、鎖を地面に引きずらせジャラジャラと音を立てながら、倒れている男にゆっくりと近づく。
男のすぐそばまで来ると、男の顔を覗くようにしゃがみ込み、右手からぽたりと男の顔に何かを垂らした。
その瞬間、倒れていた男はうめき声をあげながらのたうち回る。
「良かった~生きてるじゃーん」
派手に動き回る男の様子を見て、少女は無邪気に笑いながら喜ぶ。
「ころっ、、して、、くれ!!」
男は苦しみながらしゃがんでいる少女の足元にすがりつき懇願する。
笑っていた少女は真顔になると、紫色の瞳で刺すように男を見た。
「だめに決まってんだろ」
縋りつく男を上から見下ろす形で、再び無邪気に笑いながら言う。
「あんたは、あたしのおもちゃになるんだからっ♪」
あれからしばらく無言で歩き続けたレティシア達は、地下へ続く階段を降りたところにある扉をくぐり、酒場のような空間へ案内されていた。
「ようこそ、どこでもいいので座ってくださいな」
入って右奥にはたくさんの飲み物が並べられた棚とカウンター、その他の広い空間には丸い大きなテーブルと椅子が複数置かれている。
さらに左奥には別の部屋へ続くと思われる扉があった。
ボサボサ茶髪頭にグレーの瞳をした2メートル程はある屈強な男は、意識を失っているクリスタを抱えたまま奥の扉をくぐろうとしていた。
「待って!クリスタをっ」
「安心してくださいな。治療室がありますから。ダグラス、頼みましたわよ」
慌てて男を止めに行こうとするレティシアを片手をあげて制止し、女性は男に目線を送った。
ダグラスと呼ばれた男は静かにうなずくと、そのままクリスタを運んでいった。
ダグラスが去ったのを見届けると、女性は改めてレティシアの方へ向き直す。
「改めまして、ようこそロスト商会へ。私は主人のヴァレリアと申しますわ」
女性は片手を肩にそっと添えながら、丁寧にあいさつをした。




