第七話:マルチ・タスク・最初のエラー消去
――ヒュバババババッ!!!
ハナコさんの本尊から放たれたおびただしい数の血塗られた触手が、俺たちのログイン座標へと容赦なく襲いかかってきた。一発でも直撃すれば、こちらの精神メモリごと一括デリートされかねない特級の猛攻だ。
「――させるかァッ!!」
その凶悪な爪と触手の嵐の前に、博雅が倒れている新一年生の女の子の身をすくい上げるようにして覆いかぶさった。同時に、全身から純度100%の『黄金の氣』を爆発させ、巨大な光の防壁をレンダリング(展開)する。
――ドガガガガガガァンッ!!!!
激しい衝突音と共に、ハナコさんの触手が博雅の黄金の盾に阻まれて激しく火花を散らす。博雅は歯を食いしばり、凄まじい物理圧に耐えながら、命がけで新入生のログを完全ガードし続けた。
「今です、晴明先輩! 奴のソースコードの脆弱性(弱点)を見つけました!」
その博雅が稼いだミリ秒のタイムラグの間に、背後から有世の鋭い音声ログが響いた。有世がタブレットを高速で叩き、画面に表示されたハナコさんのコア(バグの根源)の正確な座標パケットを、俺と道満の脳内OSへと直接同期(転送)してくる。
「標的は胸の中央、そこに霊的トラフィックのバグが集中していますッ!!」
「サンキュー有世、一発で座標ロックしたわ! 道満、遅れんなよッ!」
「おう、言われんでも合わせるわ、晴明! ――【芦屋流・陰陽コード:強制書き換え】!!」
道満がピンクのペンを天に掲げると、ハナコさんの足元に無数の呪術の式がオーバーレイされ、その巨体を一瞬にしてシステム拘束した。
完全に無防備になった特級エラーのコアを見据え、俺は一歩前に踏み出す。ポケットの中で五芒星のジッポを弄る暇すらなく、両手に限界まで「無色の氣」をリロードした。
「やりたかないねー、ホンマによー……。新学期の挨拶代わりや、根こそぎ消えやがれッ!!」
俺の放った無色の氣の濁流が、道満の呪術コードと完全に重なり合って、巨大なタスクキル(強制終了)のプロセスへと昇華した。有世が指し示したハナコさんの胸の中央――脆弱性のコアへ、一ビットの狂いもなくその一撃が突き刺さる。
――キィィィァァァァァァァァッッッ!!!!!
ハナコさんの本尊が、耳を劈くような悲鳴のエラー音を上げて激しくバグり散らかし、光のパケットとなって四散していく。空間を支配していた漆黒のノイズが分子レベルで消去され、歪んでいた上下左右のプロトコルが、元の旧校舎の女子トイレへと静かに反転していった。
「……ふぅ。一件落着、だわ」
俺はそこでようやく、ポケットから五芒星のジッポを抜き出し、カチャリと軽い金属音を響かせた。足元には、無事に生存ログを維持したまま眠っている新一年生の女の子。
学園七不思議、最初の一つ目のデバッグは、こうして一応のクローズを迎えたわけだ。




