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第六十二話:生田の境界と銀の弾丸

 フォックス・テイルを飛び出した俺と金原のオッサンを乗せた黒塗りの高級車は、夜の神戸のストリートを猛烈な速度で滑り、東の重要拠点である生田神社へと一瞬にして滑り込んでいた。


 だが、この場所には一つだけ、掃除屋として絶対にクリアしなければならない最悪な障害があった。生田神社のすぐ隣には、この街の治安を司る生田署――警察署が文字通り目と鼻の先に鎮座しているのだ。ここでヤクザの弾丸と陰陽術の最大火力を爆発させれば、ストリートが大炎上して一瞬で警察に捕まるのは目に見えていた。


「……はぁ。やりたかないねー、ホンマに。生田署の目の前で大立ち回りなんて、一番のバグだわ」


 俺は深くタバコの煙を吐き出しながら、高級車の助手席で素早く両手の指先を交差させた。

 お袋から受け継いだ強大な九尾の霊力と、安倍家の血脈の波形を限界まで高め、生田神社の全域へと一気に流し込んでいく。


「――開け、境界」


 俺が低く呟いた瞬間、ジリジリとした見えない火花が空間を走り、俺の呼び声に応えて我が十二天将が二席――認識阻害を司る太裳、そして空間転移によるドメイン構築を司る天空が同時に顕現した。

 二体の天将が放つ圧倒的な術式の波動によって周囲の視界が不自然に歪み、次の瞬間、俺たちの乗った高級車は、警察の網膜からも一般人の時間の流れからも完全に切り離された、誰も立ち入ることのできない『別次元の生田神社』へと文字通り滑り落ちていた。


「ハッ、相変わらず大した腕やな、ハル坊。……これなら、どれだけ派手に弾丸をぶっ放しても警察に証拠を残される心配はないな」


 金原が不敵にニヤリと笑い、高級車の重厚なドアを乱暴に押し開けて境内のコンクリートへと降り立った。

 同時に、周囲の鬱蒼とした木々の影から、薊が仕込んだドス黒い新型の怨霊どもが、肉の匂いを嗅ぎつけた獣のように、おぞましい声を響かせながらどす黒い津波となって一斉に傷口を広げるように這い出てきやがった。


「金原のオッサン、そのハジキをちょっと貸しな」


 俺は金原の手元にある乾いた鉄の塊に向けて、自身の純銀のペアリングを嵌めた左手をそっとかざした。

 カチリ、と見えない歯車が噛み合う音が響き、俺の騰蛇の霊力と指輪の純銀の滅殺の輝きが、金原や後ろに控える獰猛な若い衆たちの銃弾へとダイレクトに流し込まれ、一本の太い線となって上書き付与されていく。


「おう、ハル坊。おやっさんと今後の九州をどう掌握するかで長いこと密談しとったんや。体がなまっとるから、運動がてこちらのやり方できっちり片付けようや。……若い衆、いったらんかい!」


 金原が獰猛に喉を鳴らし、霊力を帯びたまばゆい純銀の閃光を放つ銃弾を、夜の境内の闇へと向けて一斉にぶっ放した。


 激しい銃声とともに放たれた銀の弾丸が新型の怨霊の群れへと直撃し、これまでの陰陽術を無効化するはずの西洋の術式ごと、化け物どもの肉体を内側から大炎上させていく。

 肉の盾となった若い衆たちがハジキを連射して敵の戦線を文字通り押し留めていくなか、俺はポケットから五芒星のジッポを抜き出し、掌の中でカチャリと冷たい金属音を響かせながら火を点けた。


「はぁ、やりたかないけど上等やんけ。……そこでお出ましを待っとる本命を、力ずくで引きずり出してやるわ!」


 俺の指先から放たれた最大火力が、純銀のペアリングを通過して銀色の嵐へと反転し、境内の闇の向こうへ向けて炸裂した。

 眩い銀の光を放つ、我が十二天将がさらに二席――銀の騰蛇、それと咆哮を上げる銀の白虎がここに顕現し、その獰猛な爪で地脈の底を深く抉り取っていく。

 激しく飛び散る火花と硝煙の背後、四つの拠点の最初の一つ――薊がこの生田神社の境内の奥深くに隠し立てしていた最悪な『最初の依り代』が、天将たちの圧倒的な力によって、今、ドス黒い悲鳴を上げながら無理やり地表へと引きずり出されようとしていやがった。

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