第六十一条:四つの陣形と割られたカード
「――よし、割り振りは俺が仕切ったるわ。まず、東の生田神社はハル坊、お前と金原のペアでいけ。金原の若い衆を何十人も連れて、東の境内の闇を真っ正面から固めるんや」
瀬戸の親分は厳つい口元に不敵な笑みを浮かべ、テーブルの上の計画書を大きな指先でトントンと叩きながら、俺と金原のオッサンに向けて顎をしゃくりやがった。
「……はぁ。やりたかないねー、ホンマに。……しゃあない、東は俺と金原のオッサンで片付けるわ」
俺はポケットの五芒星のジッポに指先を触れながら、いつものトーンで低く呟いた。
「おう、ハル坊。おやっさんと今後の九州をどう掌握するかで長いこと密談しとったんや。体がなまっとるから、運動がてらうちらのやり方できっちり片付けようや」
金原はシブく喉を鳴らすと、懐の乾いた鉄の質量を確かめるようにニヤリと笑いやがった。
「次に、西の長田神社は博雅君と弓削ちゃんの二人や。……それと、俺と泰臣、俺ら二人のペアも、この西の長田のセクターへ加勢に回る。菱王会の総本部から最精鋭の若い衆を何十人も引き連れて、後ろをガッチリ固めたるわ」
「へぇ、日本一の菱王会の組長と、経験豊富で元掃除屋な探偵が、術の使えん筋肉バカと、能力に目覚めたばかりの女の子の補佐っちゅうわけか。えらい大層な夜だこと」
クソ親父が灰皿にハイライトを押し付けながらテーブルの傍らへと笑う。
「南の和田岬のセクターは、道満、お前と山本組長のペアや。山本組の若い衆と一緒に、そのナワバリを荒らしたクソどもを根こそぎ毟り取ってこい」
親分の視線を受けた道満は、その美しい口元に凍りつくような冷徹な微笑を浮かべながら、手にした冷たい缶コーヒーをテーブルの上に静かに置いた。
「はいはい、ええ加減晴明とイチャイチャしたいし、邪魔するクソどもをごっそり消し去ったるわ」
「おう、道満ちゃん! 命の取り合いや、山本組の若い衆たちと一緒に全員あの世へ送ったろうや!」
山本組長が獰猛に声を張り上げ、返り血を浴びる覚悟の若い衆たちを引き連れて南の岬へと向かう手筈を整えていく。
「そして、残った北の北野の奥の院は、加茂家の坊っちゃんと有世ちゃん、うちからは山本組の若頭の橋本のペアや。橋本の若い衆を何十人も盾にして、一番エグい呪術が走っとるその本陣を、加茂家の部隊と一緒に一網打尽にしてこい。……ヤクザのやり方と、陰陽師のやり方、お互いの流儀を乗せて、あのクソどもをこの神戸から完全に消し去ったるわ」
「――了解です、瀬戸の親分。これで、東西南北、すべての防衛線のカードが割れましたね」
有世がシャープな瞳のままタブレットのデータを確定させ、四つの車列の配置が完璧に完了した。
俺たち掃除屋の四人と、保憲先輩、電話の向こうの弓削ちゃん。あるいは日本一の組織のトップである瀬戸の親分を筆頭にした、菱王会の漢たち。
それぞれのペアに、命を奪い合う覚悟を決めた若い衆たちが何十人も張り付き、フォックス・テイルの木製のドアの向こう側、漆黒に染まった神戸の夜のストリートへと向けて、無数の排気音が重厚に轟き始めた。
東の生田へと滑り出す金原の黒塗りの高級車のなか、俺はポケットから五芒星のジッポを抜き出し、掌の中でカチャリと冷たい金属音を響かせながら、煙草に火を点けて深く煙を吐き出した。
ヤクザの最高幹部たちが九州へ向かった隙を突いた、薊の最悪な広域術式。
だが、二つの巨大な流儀が四手に分かれて同時にカチコミをかける以上、俺たちがやるべきことは一つしかない。
東西南北、四つの街の闇の向こう側、血の匂いを孕んだ乾いた風とともに、西日本を揺るがす全面戦争の本当の火蓋が、五芒星の小さな火種とともに、今、完全に切って落とされた。




