第五十九話:集結のフロアと暴かれた陰謀
路地裏での死闘を終え、党首・薊が遺した不気味な端末と古い巻物を手にした俺たち四人は、ホームグラウンドである喫茶「フォックス・テイル」へと無事に戻っていた。
店の落ち着いたソファに腰を下ろし、有世がすぐさまテーブルの上に端末を広げた、まさにその時だった。
カチャアンッ!!!
フォックス・テイルの木製のドアが重々しく押し開けられ、夜のストリートの冷気とともに、凄まじい威圧感を放つ二人の漢が姿を現した。
九州進出の仕込みを終えた瀬戸の親分、その隣に従う金原だった。二人は、これからの九州をどう動かしていくかという長い話し合いを終え、ようやく店へと戻ってきたのだ。
「ハル坊、お前らええ仕事したらしいな。……九州の方も、これからの舵取りはきっちり固めてきたわ」
瀬戸の親分は厳つい口元に不敵な笑みを浮かべ、金原とともに店のソファへとドカッと腰掛けやがった。
同時にトントンと軋む階段の音が響き、二階の探偵事務所からハイライトの煙をふかすクソ親父、あるいはクタクタになったりお先生の二人もフロアへと降りてきた。
「あらあら、うふふ。みんな長旅に喧嘩に、ホンマにお疲れさん。あったかいお茶でも飲んで落ち着きぃな」
カウンターの奥から、おっとりとした上品な声を響かせながら、トレイに乗せたお茶を運んできたのは母ちゃんだった。
日本一のヤクザのトップや、国家規格を背負う前生徒会長、そして老獪な探偵が睨み合うこの張り詰めたフロアのなかで、九尾の狐としての強大な気配を一切見せず、ただの優しい喫茶店の女主人として微笑んでいる母ちゃんの存在感は、ある意味で誰よりも底が知れなかった。
「はぁー、これだけのメンツが揃うなんて、えらい大層な夜だこと。有世ちゃん、その薊とかいう奴が遺したデータの解読、始めてえや」
クソ親父が灰皿にハイライトを押し付けながらテーブルの傍らへと陣取り、一同の張り詰めた視線がテーブルの上の画面へと一斉に集まった。
有世がシャープな瞳のまま静かに画面を叩くと、そこに映し出されたのは、神戸の地下を走る巨大な地脈の霊的ラインと、そこに仕掛けられた最悪な裏コードの全貌だった。
「――皆さん、これを見てください。コレクターの党首・薊が本当に狙っていたのは、この神戸の地脈を売り渡すことではありませんでした。奴らが仕組んでいた次の陰謀は……この神戸にある『すべての怪異の封印』を一斉に解除し、街全体を怨霊の巣窟へと変えるための大掛かりな広域術式です」
有世のその冷徹な言葉が静まり返った店内に響き渡った瞬間、博雅が低く息を呑み、道満もその吸い込まれそうな瞳を極限まで鋭く尖らせた。
瀬戸の親分は凄まじい眼光のまま不敵にニヤリと笑い、金原も懐の乾いた弾丸の感触を確かめるように拳を握り締める。
「やりたかないねー。学園の怪談騒ぎや睦会の暴走は、ただの目眩ましにすぎんかったわけか。本命は、この街そのものを根元から壊しにくる気か」
俺はポケットから五芒星のジッポを抜き出し、掌の中でカチャリと軽い金属音を響かせながら、煙草に火を点けて深く煙を吐き出した。
ヤクザの最高幹部たちが九州へ向かった隙を突き、この手薄になった神戸で引き起こされようとしている未曾有の災厄。
だが、日本一の組織のトップと、ストリートの掃除屋である俺たち新生徒会がこのフロアに揃っている以上、どこの誰がどんな最悪な罠を仕掛けてこようと、俺たちがやるべきことは一つしかない。
吹き抜ける乾いた夜風のなか、五芒星のジッポの小さな火種を見つめる俺たちの視線の先。
完全に暴かれた次の陰謀を前に、俺たちの愛する神戸の夜のストリートが、血の匂いを孕んだ不穏な熱量とともに、次なる全面戦争の火蓋を今か今かとじっと呼び戻していた。




