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第五十七話:銀の神々の咆哮と崩壊するコレクション

 ウオォォォォォォッ!!!


 博雅が凄まじい怒号とともに、全身の黄金の氣を両拳へと集中させ、薊の敷いた半透明の防壁のひび割れを力ずくで押し広げていた。

 ミシミシと空間が軋む音が路地裏に響き渡り、博雅の額から大粒の汗が滴り落ちる。


「晴明、道満! 早よせえ、この西洋の術式、想像以上に重たいねんて……!」


「博雅、そのまま維持しとけ!」


 俺は叫ぶと同時に、左の指に嵌められた純銀のペアリングへ、自身の霊力を一気に注ぎ込んだ。

 脳裏をよぎるのは、あのヴァンパイア事件の夜、葛城に傷つけられたこの女の唇を、俺の舌で激しく奪って上書きし、そのままホテルへと転がり込んで互いの全てを貪り合った、あの熱い皮膚の記憶だ。


 全身の血が狂おしく滾るのを感じながら、俺はポケットから五芒星のジッポを抜き出し、カチャリと軽い金属音を響かせながら火を点けた。

 ペアリングから放たれたまばゆい純銀の滅殺の光が、俺の宿す特級の氣を瞬く間に変貌させていく。

 闇を切り裂いて顕現したのは、漆黒の業火ではなく、まばゆい銀の輝きをまとった騰蛇、そして咆哮を上げる銀の白虎だった。


「へぇー。あの夜のことを思い出すと、うちらの術も一段と熱くなるね、晴明」


 隣に立つ道満が、凍りつくような冷徹な微笑をその美しい口元に浮かべながら、俺と全く同じ一対の純銀の指輪を不敵に薊へと向けた。

 その爛々とした瞳の奥には、俺への狂暴なまでの独占欲と、あのホテルのベッドで「すっご……」と零した時の熱い情動が、今も確かに脈打っている。


 道満の指先から放たれた極彩色の霊気が、純銀のペアリングを通過した瞬間、神鳴りの音とともに銀色の嵐へと反転した。

 眩い銀の光を放つ風神と雷神の双神が、その獰猛な爪を剥き出しにして、俺の白虎たちと並び立つ。


「な、何だそれは……!? 私の完璧なコレクションの防壁が、なぜ内側から拒絶されている……!?」


 それまで自らの長い髪を弄んでスカしていた薊のナルシスト面が、初めて驚愕と恐怖で醜く引きつり始めた。

 博雅が黄金の氣でこじ開けたわずかな隙間へ向けて、俺と道満は互いの呼吸を完璧に重ね合わせ、その銀の神々を同時に一閃した。


「いけぇッ!!」


 轟音とともに路地裏を突き抜けた、銀の白虎と騰蛇、そして銀の風神雷神。

 純銀の滅殺の力を宿した四体の神々が、西洋の術式防壁を内側から木っ端微塵に爆破し、その圧倒的な光の津波が、薊のスカした顔面を真っ正面から容赦なく吹き飛ばした。


ギャァァァァァァァッッッ!!!!!


 衣服をズタズタに引き裂かれ、血飛沫を上げながらコンクリートの床へと激しく転がっていく薊の悲鳴が、夜の静寂をブチ抜いていく。

 お袋の欲情が遺したペアリングと、あの夜の激しい記憶がもたらした、これまでにない圧倒的な一撃。

 煙草の煙を深く吐き出し、崩壊していく防壁の破片がキラキラと夜空に舞い散るなか、致命傷を負って走ることもできずに這いつくばるコレクターの党首の姿を、俺たちは鋭い掃除屋の瞳のまま、冷酷に見下ろしていやがった。

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