第五十六話:西洋の防壁と反撃のペアリング
路地裏の闇を真っ二つに引き裂いた、俺の騰蛇の業火、博雅の黄金の光条、道満の神鳴りの嵐。その三つが織り成す最大火力の正面衝突は、しかし、薊の目の前で突如として出現した、見たこともない奇妙な半透明の防壁によって完全に静止させられた。
激しい爆音と火花が防壁の表面で激しく弾け飛ぶなか、薊は自らの長い髪を弄びながら、これっぽっちも焦る様子もなくククッと喉を鳴らしやがった。
「素晴らしいね。だが、私のコレクションには届かないよ」
男が優雅に指先を翻した瞬間、俺たちの放った渾身の術式が、まるで壁に吸い込まれるように跡形もなく消滅させられていく。
俺と道満の術が完全に無効化されるなか、唯一、博雅の放った黄金の氣だけが、その防壁の表面をわずかにひび割らせて火花を散らせていた。
「――先輩方、ヴァンパイア事件の時と同じです!」
激しい攻防の背後、自販機の明かりの下でタブレットを見つめながら戦況を追っていた有世のシャープな瞳が、その一瞬の光の歪みを鋭く見抜いて怒号を響かせた。
「さっきから博雅さんの攻撃しか有効打になってないのを見るに、あの防壁には東洋の呪術を無効化する西洋の術式が使われてます。東洋の陰陽術をそのままぶつけても相殺されるだけです! 晴明先輩と道満先輩は、あのペアリングを通して下さい!」
有世のその的確な指示が耳の奥に響いた瞬間、俺と道満は言葉を交わすまでもなく、互いの網膜を真っ正面からロックオンした。
あのヴァンパイア事件の夜、二階の事務所で神父の十字架に力を流し込む際、母ちゃんがとんでもない欲情を滾らせたせいで、男女の指輪へと変貌してしまったあのペアリング。
「へぇー。有世の言う通りやな。晴明、これを使う時がまた来たみたいやね」
道満はその美しい口元に凍りつくような冷徹な微笑を浮かべながら、手にした冷たい缶コーヒーをコンクリートの床へと静かに置いた。
当時はあれほど嫌がり恥ずかしがっていたその細い指先には、今や俺たちの確かな絆の証として馴染んだ純銀の指輪がきらりと嵌められており、彼女はそれを愛おしそうに、だけど最高に不敵な意思を込めて、薊の目の前へと真っ直ぐに突き出してみせた。
「はぁ、やりたかないけど上等やんけ。博雅、正面のひび割れをそのまま拳で維持しとけ! その上から、俺と道満の術にあの銀の力を乗せて、そのスカしたコレクションごと根こそぎブチ抜いたるわ!」
俺もまた、左の指に嵌められたお揃いの純銀の指輪へと、あの夜の因縁をどこか懐かしく思い返しながら、一瞬で自らの霊力を流し込んだ。
カチリ、と見えない歯車が噛み合うような冷たい音が路地裏に鳴り響き、母ちゃんの規格外の力と純銀の滅殺の輝きを宿したペアリングが、俺たちの放つ陰陽術の波形を物質的に、かつ霊的に100%完全同期させていく。
指輪を介することで、俺の騰蛇の黒紫の業火にも、道満の放つ苛烈な術にも、西洋の防壁を内側から大炎上させる『純銀の力』が瞬く間に上書き付与されていく。
有世の看破によって導き出された、党首の防壁を粉砕するための完璧なカウンターの配置。
不気味に明滅する自販機の青白い光のなか、二人の指輪が今や揺るぎない信頼とともに放つ、純銀の滅殺の輝きが、驚愕に顔を引きつらせ始める薊のナルシスト面を、冷酷に、精度高く、そして容赦なく照らし出し始めていた。




