第五十四話:新たな党首と路地裏の反転
ぬるい夜風を浴びながら、自販機の前に並んで冷たい缶コーヒーをすする。そんな気怠いサボりの時間は、有世の持つタブレットが突如として、これまでにないほどおぞましい警告音を鳴り響かせたことで一瞬にして崩壊した。
画面を覗き込んだ有世の顔からみるみるうちに血の気が引き、そのシャープな瞳が凍りついたように見開かれる。
「――晴明先輩、これを見てください。これまでの残党とは明らかに次元が違う、全く新しい系統の怪異の気配が……今、このすぐ近くに発生しています」
有世の手元で明滅する光は、かつて姫路で倒したコレクターの歪みすら生温く思えるほど、濃厚で冷徹な怨念の質量を放っていた。
泰臣たちのプロファイリングは、ミリ単位のブレもなく的中していたのだ。大物幹部たちが九州へ向かい、足元が手薄になったこの神戸の隙を狙って、ついに本物の怪異の元凶――新たなコレクターの党首がその姿を現したのだ。
「へぇー。睦会や教頭を踏み台にして、本命がやっとお出ましっちゅうわけやな」
道満は手にした冷たい缶コーヒーを両手で静かに握り締めながら、その爛々とした瞳をさらに鋭く尖らせ、凍りつくような冷徹な微笑をその美しい口元に浮かべやがった。
「あぁ。これだけの殺気、ただの怨霊の群れとは訳が違うぞ。……街の地脈が、根元から怯えてやがる」
博雅が両拳を固く握り締め、全身の氣をピリピリと滾らせながら、路地裏のさらに奥にある深い闇の向こう側を真っ直ぐに睨み据えた。
つい数秒前までの緊張感の抜けたサボりモードは、すでにこのストリートの空気から一瞬にして消え去っていた。
「……ハッ、上等やんけ。どこの誰が乗り込んできやがろうと、俺たち掃除屋がやることは一つしかないやろ」
俺はポケットから五芒星のジッポを抜き出し、掌の中でカチャリと冷たい金属音を響かせながら、消えかけた街灯りの向こうで蠢く巨大な影に向けて、鋭い掃除屋の瞳を突き立ててやった。
すぐ傍らから聞こえてくる、おぞましい化け物どもの足音と、衣服のこすれる不気味なノイズ。
手薄になった神戸のストリートで、ついに牙を剥いた真の敵との遭遇。
五芒星のジッポの小さな火種をじっと見据える俺たちの視線の先、暗闇に染まった路地裏の冷え切った空気が、これから始まる未曾有の死闘を予兆するように、ジリジリとした最悪の熱量を孕んで反転し始めていやがった。




