第五十話:新快速の帰還と前生徒会長の追及
神戸の波止場にある睦会のアジトを山本組とともに叩き潰した俺たちは、ホームグラウンドである喫茶「フォックス・テイル」へと無事に戻り、店内の落ち着いたソファへと気怠い身体を預けていた。
有世がタブレットを片手に戦果の整理を始め、博雅と道満が冷めた珈琲を口にした、その時だった。
カチャァンッ!!!
フォックス・テイルの木製のドアが乱暴に押し開けられ、凄まじい硝煙の匂いとともに、九州でのカチコミを鮮やかに終えて新快速で神戸へと舞い戻ってきた金原が、大柄な体躯を揺らしながら姿を現した。
瀬戸の親分への報告の前に俺たちの元へ立ち寄ったその厳つい顔には、博多の街を文字通り恐怖でフリーズさせてきた漢ならではの、剥き出しの迫力がみなぎっていやがった。
「ハル坊、お前らの仕込みのおかげで博多の泥はきっちり片付いたわ。加茂家の坊っちゃんも、ええ仕事しっとったわ」
金原は店のソファにドカッと腰を下ろすと、不敵にニヤリと笑い、懐から取り出した睦会の戦後処理に関する書類の束をテーブルへと放り投げた。
日本一の組織である菱王会が、これから本格的に九州の利権と地脈の残骸をすべて掌握するための、冷徹な極道の計画書だ。
「――ですが金原さん。まだ完全に終わったわけではありません。今回の睦会の一件、その背後で糸を引いていたコレクターの残党たちの真の狙いは……」
有世がシャープな瞳のまま次の情報を提示しようとした、まさにその瞬間だった。
「……ねえ、安倍くん。ちょっとお話をしようか」
背後の窓枠に腰掛け、いつの間にか店内の影に潜んでいた保憲先輩が、相変わらず計算高そうな薄笑いを浮かべながら、俺の肩をその冷え切った指先でガシッと掴みやがった。
保憲先輩のその底の知れない黒い瞳が、至近距離から俺の掃除屋の瞳を真っ直ぐにロックオンする。
「わざわざ僕を九州まで引っ張り出して、加茂家の部隊をパシリに使うなんて、本当にいい度胸をしているよね。……ねぇ、これはまさか、僕が生徒会長だった頃の仕返しかい?」
「――ッ!??!?!」
保憲先輩のその低く張り詰めた関西弁の声が店内に響いた瞬間、博雅と道満の背主に、冷水を浴びせられたような最悪な戦慄が走り抜けた。
俺はポケットから五芒星のジッポを抜き出し、掌の中でカチャリと軽い金属音を響かせながら、先輩の鋭い眼光を真っ正面から気怠く見返してやった。
「ハッ、なんのことだかさっぱり分かりませんね、保憲先輩。……俺たちはただ、神戸のストリートを綺麗に掃除しただけですよ」
俺は深くタバコの煙を吐き出し、先輩のニヤけた顔に向けて不敵に言い放ってやった。
激動の九州カチコミを終え、再びこの1階の喫茶店へと還ってきた俺たちと菱王会の面々。
ヤクザの冷徹な戦後処理と、前生徒会長からの容赦のない因縁の追及。二つの狂暴な歪みを孕みながら、俺たちの愛する神戸の夜のストリートは、消えかけた夕闇の向こう側で、さらに深く、ドス黒い熱量とともに俺たちの足元をじっと呼び戻していた。




