第四十九話:引き揚げの美学と次なる布石
保憲率いる加茂家直轄部隊の圧倒的な術式の前に、コレクターの残党どもは一人残らず身動きを封じられ、呪縛の縄によって完全に拘束されていた。
割れたガラスと硝煙が充満する事務所の最深部では、睦会の首領が、金原の放つ容赦のない威圧感の前に完全に締め上げられ、床に組み伏せられていやがった。
「おい、九州の芋侍。お前らの野心ごと、これで終わりや。……二度と菱王会の名を見て色気出すなよ」
金原はドスの刃を首領の喉元から静かに引き抜くと、懐のハンカチで返り血を拭い、ふぅと深くため息を吐き出した。
「やれやれ、相変わらず手際がいいね、金原さん」
保憲は白狐の式神を懐へと戻しながら、相変わらず計算高そうな笑みを浮かべて金原へと歩み寄ってきた。
「そういえば、神戸の安倍くんから伝言を預かっているんだ。『神戸の泥は片付いた。』だってさ。……君たちがここで睦会を叩いている間に、向こうの本拠地アジトも、彼らが完全に消し去ったみたいだよ」
保憲のその言葉を聞いた瞬間、金原は一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐにククッと喉を鳴らして不敵に笑いやがった。
「ハッ、相変わらず生意気なガキ共やわ。うちらが博多に突っ込むタイミングまで、全部あのクソガキの計算通りっちゅうわけか」
金原は手にした拳銃をガチリと懐へと収めると、背後の若い衆たちを振り返り、何人かの実力派の面々をその場に指差しやがった。
「お前ら数人は、このまま九州に残れ。睦会の利権の残骸を全部整理して、うちらが本格的に九州へ進出するための地盤、きっちり固めとけ。……残りの奴らは、ほな帰ろか」
その一言で、嵐のようなカチコミの緊張感が、一瞬にして乾いたストリートの日常へと引き戻されていく。
現地の事務所の戦後処理と九州進出の冷徹な布石を若い衆に任せ、金原は保憲に軽く顎をしゃくって挨拶を済ませると、そのまま大勢の若い衆を引き連れて、ホームグラウンドである神戸へと向けて堂々と歩き出しやがった。
崩壊した睦会のビルに残された、菱王会の圧倒的な爪痕。
ヤクザの弾丸と陰陽師の連携によって、西日本の裏社会の勢力図が完全に塗り替えられた博多の夜。
新幹線のプラットホームへと再び向かう金原の足音の背後で、消えかけた街灯りの群れが、すべての因縁が再び神戸のストリートへと還っていく前の、嵐の前の静けさをじっと物語っていやがった。




