第四十八話:前生徒会長の介入と博多の夜の反撃
金原たちの剥き出しの暴力は、瞬く間に睦会の本拠地ビルを血と硝煙の渦へと叩き落としていった。
数で勝るはずの睦会のヤクザどもを次々とドスで這いつくばらせ、金原が事務所の最深部へと足を踏みれた、その時だった。
突如として、廊下の空気が凍りつくような冷たい怨念の気配が放たれ、目の前にドス黒い呪術の防壁が立ち塞がった。
「――ヒヒッ、脳筋の極道どもが。神をも揺るがすあの御方の力を借りた我らに、そんな鉛の塊が通じると思うか!」
奥の部屋から姿を現したのは、狂った笑みを浮かべるコレクターの残党――特級術者どもだった。
奴らが呪文を唱えた瞬間、天井からおぞましい姿をした怨霊の群れが湧き出し、若い衆たちの肉体へと襲いかかっていく。
金原がすかさず拳銃を連射したものの、放たれた弾丸はすべて不気味な黒い防壁に阻まれ、虚しく床へと弾き落とされるだけだった。
「チッ、化け物どもが……! 構うな、お前ら、命の取り合いや、気合でブチ抜け!」
金原が鋭い眼光のままドスを構え直したが、物理的な手段を持たないヤクザの身では、迫り来る怨霊の群れを前に絶体絶命の窮地に追い詰められていく。
だが、その冷え切った絶望を切り裂くように、金原の胸ポケットが突如として凄まじい黄金の光を放った。
神戸を発つ前、晴明から手渡されていた五芒星の刻まれた古びたお守り――それが、博多の地脈と共鳴するように、眩いばかりの浄化の氣を爆発させたのだ。
「――ギャァァァァァァッッッ!!!!」
お守りから放たれた光の波が、若い衆たちに襲いかかろうとしていた怨霊どもを真っ正面から焼き払っていく。
不意を突かれて狼狽するコレクターの残党どもが「な、何だこの光は……!? 神戸の掃除屋の仕込みか!」と声を荒らげた、その直後だった。
「やれやれ。安倍くんはほんまに人使いが荒いなぁ。卒業してまで、こんな遠くまでパシリにされるとは思わなかったよ」
ビルの割れた窓から、夜風に衣服をなびかせながら、退屈そうな声を響かせて一人の漢が静かに歩み寄ってきた。
かつて生徒会を束ねていた前生徒会長、賀茂保憲だ。
保憲が気怠そうに指先で印を結ぶと、ビルの周囲の闇から、漆黒の狩衣をまとった加茂家の精鋭陰陽師部隊が、一斉に式神を引き連れてビルの内部へと突入してきた。
「加茂家直轄部隊、展開。……陰陽師の術式を汚した不法分子どもを、一網打尽にしろ」
保憲の冷徹な号令とともに、解き放たれた無数の白い狐の式神たちが、コレクターの残党どもを呪術の防壁ごと容赦なく噛み砕き、その歪んだ術式を根こそぎ消滅させていく。
ヤクザの乾いた銃声の後に響き渡る、陰陽師たちの圧倒的な国家規格の呪術戦。
保憲の登場によって戦況が一瞬にしてひっくり返った博多のビルのなか、金原はニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、再びドスの刃を睦会の首領の喉元へと向けて突き立てるべく、静かに歩みを進め始めていた。




