第四十五話:硝煙の波止場と神々の嵐
カァン、と夜の港湾地区に響き渡った山本組長の銃声を合図に、俺たちはコンテナの影から一斉に地を蹴った。
博雅がその黄金の氣を宿した拳で廃倉庫の巨大な鉄扉を真っ正面からブチ破り、爆音とともに俺、道満、有世の四人がその混沌の渦中へと突入する。
倉庫の奥、怪しく光る呪術陣の前に陣取っていたのは、あの姫路で倒したはずのコレクターの残党――睦会に拾われた特級術者どもだった。
依り代を暴かれて逆上した奴らが一斉に印を結ぶと、天井の闇から肉眼で見えるほどドス黒い、大量の怨霊の群れが津波のように俺たちへ向けて牙を剥きやがった。
「――有世、術式の位置を突き止めろ! 博雅、道満、正面の防壁ごと奴らをごっそり消し飛ばすぞ!」
俺はポケットから五芒星のジッポを抜き出し、掌の中でカチャリと冷たい金属音を響かせながら、右手に騰蛇の黒紫の業火を限界まで滾らせた。
道満が両手を天に掲げた瞬間、倉庫のなかに凄まじい神鳴りの音が轟き、風神と雷神の双神がその獰猛な爪を剥き出しにして顕現した。
博雅の放つ圧倒的な黄金の光条と、道満の繰り出す神々の暴風雨、そして俺の放った騰蛇の絶対火力が一つに混ざり合い、正面を埋め尽くしていた違法呪術の防壁ごと、怨霊の群れを容赦なく焼き尽くしていく。
その陰陽術の嵐のすぐ傍らでは、もう一つのストリートの戦争が血飛沫を上げていた。
「オラァッ! 菱王会のナワバリで舐めた真似してタダで済むと思うなよ!」
山本組長が獰猛な声を張り上げながら、手にした拳銃を睦会のヤクザどもに向けて容赦なく連射していく。
「おっしゃあ! 睦会のクソ田舎者ども、日本一の看板の威光、その身に刻んであの世へ行きやがれ!」
若頭の橋本が返り血を浴びながらドスの刃を敵の肉へと突き立て、若い衆たちもそれに続いて怒号を上げる。
銃声と悲鳴が飛び交うなか、山本組の面々と睦会の連中が、文字通り互いの命を奪い合う、泥臭くも剥き出しの抗争が倉庫のコンクリートを赤く染めていった。
術者どもの悲鳴と、ヤクザの乾いた銃声。
二つの全く異なる流儀が、神戸のウォーターフロントの闇を真っ二つに引き裂いていく。
五芒星のジッポが静かに閉じる軽い金属音の背後で、崩壊していく倉庫の爆炎が、これから始まる裏社会全体の全面戦争を予兆するように、俺たちの荒い息遣いを真っ赤に照らし出していた。




