第四十四話:波止場の包囲網と新幹線の刺客
潮の匂いと鉄錆の混ざった風が、漆黒に染まった神戸のウォーターフロントを吹き抜けていく。
街の喧騒から切り離された港湾地区の暗がりに、九州の睦会が密かに構築していた潜伏アジトである、巨大な廃倉庫が不気味に佇んでいた。
有世がタブレットの画面を消し、俺、博雅、道満の三人に鋭い視線を送る。
新生徒会、いや、ストリートの掃除屋としての俺たち四人は、足音一つ立てずに夜のコンクリートを駆け抜け、アジトを正面から見据えるコンテナの影へと滑り込んだ。
「――晴明先輩、有世のナビ通り、睦会の連中のどす黒い気配が、あの倉庫の奥にびっしりと固まっています」
道満が戦闘用コートの裾を翻しながら、獰猛な瞳を暗闇の中で爛々と輝かせる。
「あぁ。これだけ派手に地脈を汚しやがって。……だが、俺たちが仕掛けるのと同時に、あっちの仁義もブートされたみたいだな」
博雅がふと、港の入り口へと鋭い視線を向けた。
俺もポケットから五芒星のジッポを抜き出し、掌の中でカチャリと軽い金属音を響かせながら、消えかけた夕闇の向こうから迫る無数のライトの光を見据えた。
静まり返った波止場のストリートに、重厚な排気音が重なり合う。
瀬戸の親分の命令を受けた菱王会系山本組の組長、山本を筆頭に、若頭の橋本、そして獰猛な若い衆たちを乗せた黒塗りの高級車が、およそ十台、テールランプを殺したまま廃倉庫を完全に包囲し始めたのだ。
車から静かに降りてきた山本組長が、懐の拳銃を確かめながら、俺たち掃除屋の影に向けて不敵に顎をしゃくりやがった。
ヤクザはヤクザの流儀で。掃除屋は掃除屋の流儀で。
あのハゲ頭の教頭を操り、日本一の組織すら機能停止に追い込もうとした睦会のクラッカーどもを、今度は俺たちが真っ正面からハサミ打ちにする。
――時を同じくして、新神戸駅のホーム。
凄まじい風圧とともに滑り込んできた新幹線の乗車口へ、一際カタギ離れした鋭い眼光を放つ漢が、何人もの若い衆を引き連れて乗り込もうとしていた。
あの姫路での死闘をともに生き延びた、金原だ。
「……瀬戸の親分をハックしようやなんて、九州の田舎者が随分とええ度胸しとるやんけ」
金原は新幹線の窓ガラスに映る己の顔を忌々しそうに睨みつけながら、懐の乾いた弾丸の質量を指先で確かめた。
「ガキ共らが神戸の泥を掃除しとるんや。うちらは直接、九州の睦会の本拠地に乗り込んで、その首根っこを根こそぎブチ抜いたるわ」
発車のベルが静かに響き、刺客たちを乗せた鉄の塊が、睦会の喉元へ向けて闇の中を加速していく。
神戸の波止場に轟くヤクザの銃声と陰陽術の火花、そして九州へ向かう新幹線のレールの響き。東西のストリートが完全に連動した、睦会に対する容赦のない大反撃のカウントダウンが、今、五芒星のジッポの小さな火種とともに、静かに爆発の瞬間を迎えようとしていた。




