第四十三話:共同戦線の火蓋と男たちの流儀
五芒星のジッポから放たれた騰蛇の黒紫の業火が、ソファの真下で脈打っていた不気味な髑髏を真っ正面から呑み込み、その存在を容赦なく焼き尽くした。
パシィィィィンッ!!!
総本部の空間そのものが物理的にひび割れるような冷たい音が鳴り響き、街の地脈を裏からねじ曲げていた特級の結界が、一瞬にして全解除される。
その瞬間、ロビーで時間を止められていた何百人もの菱王会の組員たちが、ハッと大きく息を吐き出しながら一斉に動き出した。
フリーズしていた巨大な組織が、本来の圧倒的な威圧感と凶暴な熱量を取り戻し、総本部全体が地鳴りのようなざわめきに包まれていく。
「……ふぅ。これで、ここの呪いは全消去やな」
俺は右手の火炎を影の底へと静かに沈め、パチリと軽い金属音を響かせながらジッポの蓋を閉じた。
「――おぉ、身体がめちゃくちゃ軽くなったわ! 晴明、やったな!」
道満が黒紫の霊気の残響を払いながら快活に笑い、博雅もその両拳の黄金の氣を静め、安拓の表情で深く息を吐き出した。
本革のソファからゆっくりと立ち上がった瀬戸の親分は、ようやく思い通りに動くようになった自身の頑強な身体を確かめるように軽く首を鳴らし、それから俺たち掃除屋の面々を真っ直ぐに見据えた。
呪術なんて一切使えないはずのただの人間でありながら、先ほどまで部屋を埋め尽くしていた化け物どもの気配を、その凄まじい胆力だけで睨み据えていた漢の眼光が、一段と鋭さを増す。
「ハル坊、お前ら感謝すんで。……日本一の看板背負っといて、九州の田舎ヤクザどもに遅れを取るところやったわ」
瀬戸の親分は厳つい口元に不敵な笑みを浮かべ、俺の肩をその大きな手でガシッと掴みやがった。
「よし、お前らが外堀を埋めてくれたんや。ここからは、九州の睦会の本拠地を根こそぎ叩き潰すぞ。……ハル坊、掃除屋は掃除屋として動け。ヤクザはヤクザとして動く。お互いの流儀で、あのクソどもをこの街から完全に叩き潰したるわ」
「――ハッ、上等じゃねえか、瀬戸の親分」
俺はクソ親父の探偵事務所で誓った通りの、鋭い掃除屋の瞳のまま、親分の凄まじい眼光を真っ正面から見返してやった。
日本一のヤクザ組織・菱王会と、陰陽師にしてストリートの掃除屋である俺たち新生徒会。決して交わることのなかった二つの巨大な組織が、あの姫路での因縁を清算すべく、今ここに最悪で最高の【反撃の共同戦線】の火蓋を切った。
ヤクザの弾丸と、陰陽師の業火。
そのどちらが先に、あの九州の連中の首根っこをブチ抜くか。
静まり返った総本部の重たい空気の向こう側、漆黒に染まった神戸の夜の怪異とストリートが、血の匂いを孕んだ乾いた風とともに、俺たちの足元をじっと呼び戻していた。




