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第四十一話:総本部のフリーズと親分のドメイン

 日本一番のヤクザ組織、菱王会総本部。

 普段なら街の空気を丸ごと圧殺するような威圧感を放っているその巨大な門構えは、今、不気味なほど冷たい静寂のなかに沈み込んでいた。


 有世がタブレットで逆アクセスデータを追跡し、俺と博雅、道満を引き連れて、その重厚なエントランスを真っ正面からくぐり抜ける。


 だが、一歩足を踏み入れた瞬間に、俺の肌がピリピリと痺れるようなおぞましい霊気のノイズを感知した。

 ロビーのなかにいる組員たちの誰もが、まるで時間を一時的に止められたかのように、網膜の焦点を虚空に彷徨わせたまま、ぴくりとも動かずにその場に立ち尽くしていやがったんだ。


「……何やこれ。みんな、立ったまま意識を飛ばされてるんちゃう?」


 道満が戦闘用コートの裾を握り締め、周囲の異常な雰囲気にその爛々とした瞳を鋭く尖らせる。


「あぁ。地脈を裏からねじ曲げることで、日本一の組織の防衛線を内側から丸ごと機能停止させてやがるんだ。……睦会の連中、姫路の時よりさらにヤバい特級の裏工作(術式結界)を回してやがるな」


 博雅が両拳の氣を低く滾らせながら、動かない組員たちの間を縫うようにして奥へと進む。

 組事務所の最深部、重厚な漆塗りのドア。有世がその電子ロックの防壁を指先一つで弾き飛ばし、俺がそのドアを気怠く押し開けた。


 部屋の奥、大きな本革のソファ。

 そこにドカッと腰掛け、凄まじい眼光のまま、全身から放たれる暗黒の呪術結界を自身の特級の霊力だけでギリギリと押し留めていた漢――瀬戸の親分が、俺たちの姿を網膜に捉えた。


「――よう来てくれたな、ハル坊」


 瀬戸の親分は、喉の奥から乾いた声を絞り出すようにして、不敵な笑みをその厳つい口元に浮かべやがった。


「瀬戸の親分。日本一の看板が随分と派手にフリーズさせられとるやんか。ハゲ頭の教頭を踏み台にして、九州の睦会がこの街の防衛線を根こそぎ奪いにきてるってのに、随分と大人しいじゃねえか」


 俺はポケットから五芒星のジッポを抜き出し、掌の中でカチャリと冷たい金属音を響かせながら、親分の目の前へと気怠く歩み寄ってやった。


「ハッ、言うようになったじゃねえか、ガキのくせに。……だが、ハル坊の言う通りやわ。姫路でコレクターのバカが消去されてから、奴ら本気でこの街の地脈を丸ごと売り渡すための最悪な罠を仕掛けてきとる。俺の身内が内側から術式を喰らって、物理的に身動きが取れねえ状態に追い込まれてとるわ。……この結界を裏からぶち壊しにきてくれたってんなら、喜んでその若えリソース、使わせてもらうぜ」


 瀬戸の親分が深く息を吐き出し、俺たちの掃除屋の瞳を真っ正面から見据えやがった。

 新生徒会として学園の怪談騒ぎを超え、ついに日本一番のヤクザ組織の最深部で交わされた、命懸けの契約。西日本の裏社会全体を丸ごと巻き込むストリートの戦争が、今、この動かない総本部の冷え切った空気のなかで、静かに、だけど確実に着火されやがったんだ。

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