第四〇話:沈黙の絶対王者と姫路の残響
ボロボロになった教頭の事後処理を担任のりお先生にすべて丸投げした俺たちは、ホームグラウンドである喫茶「フォックス・テイル」の二階――クソ親父の探偵事務所へと舞い戻っていた。
カビ臭い部屋のデスクの奥では、相変わらず胡散臭いオーラをまとったクソ親父が、気怠そうに安タバコの煙をふぅと吐き出しながら、俺たちの生存を薄笑いで見つめていやがった。
「――泰臣さん。教頭の残したデータから、あの姫路での一件を経て、睦会がなぜ今になってこの神戸を再び狙ってきたのか、その不穏な動きが一部抽出できました」
有世が探偵事務所の古いデスクをジャックし、持ち込んだタブレットの画面をクソ親父に向けてスライドさせる。
「ですが、どうしても裏社会のパワーバランスの辻褄が合わない部分が一つだけあります。……これほど巨大な九州の睦会が神戸の地脈を裏から揺らしにかかっているというのに、この日本で一番のヤクザ組織であり、私たちの知り合いでもある瀬戸の親分の【菱王会】が、どうして動く気配が一切ないのですか?」
有世のシャープな瞳が、デスクの奥のクソ親父を真っ直ぐにロックオンした。
博雅がそのクエリに深く腕を組み、道満も珈琲カップを置く手を止めて、裏社会の不気味な静寂にじっと耳を澄ませる。
「……あぁ? 瀬戸の親分がなんで動かへんのかって?」
クソ親父は灰皿にタバコを押し付けると、液晶画面に表示された睦会の暗号データをトントンと指先で叩き、いつもより少しだけ真面目なトーンに声を落としやがった。
「有世ちゃん、そりゃあ動かねえんじゃねえ。……動かれへんのや。あの姫路でコレクターのバカが消去されてから、睦会の連中は菱王会の外堀を埋めるために、かなり大掛かりな裏工作を回しとる。日本一の組織である瀬戸の親分らの身内が内側からハックされて、物理的に身動きが取れねえ状態に追い込まれてる可能性が高い。学園の地脈を教頭に狙わせたのも、菱王会の目を完全にそこへ釘付けにさせるためのブラフや」
「――ッ!?!?!」
クソ親父のその冷徹な言葉が探偵事務所の空間に響いた瞬間、俺、博雅、あるいは道満の背主に、冷水を浴びせられたような最悪な戦慄が走り抜けた。
瀬戸の親分が、物理的に動けないほどの裏工作を受けている。
それはつまり、学校の怪談騒ぎも, ハゲ頭の教頭の暴走も、すべてはあの姫路での死闘の因縁を引きずった九州の睦会が、日本一のヤクザ組織である菱王会を丸ごと機能停止させるために仕組んでいた、最悪な陰謀のほんの始まりにすぎなかったんだ。
俺はポケットから五芒星のジッポを抜き出し、掌の中でカチャリと冷たい金属音を響かせながら、液晶画面のデータを心底忌々しそうに見据えた。
「……ハッ、上等じゃねえか。瀬戸の親分が身動き取れねえってんなら、今度は俺たち新生徒会が、そのハックされた日本一の防衛網を裏から直々にデバッグ(加勢)しにいってやるだけだわ」
俺は深くタバコの煙を吐き出し、クソ親父のニヤけた顔に向けて、鋭い掃除屋の瞳のまま不敵に言い放ってやった。
学園七不思議という壮大なプロローグを終え、日本一の最大組織と九州の巨悪が真っ正面から激突するかもしれない。掃除屋を乗せた俺たちのストリートのタイムラインは、菱王会も参戦し、さらに狂暴にクロックアップしていきやがるんだ。




