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第三十七話:お墨付きの全権委任と職員室ブレイカー

 夜の隠密ハックで教頭の犯罪データを完全にブチ抜いた俺たちは、一度ホームグラウンドである喫茶「フォックス・テイル」の二階へと帰還していた。


 有世がノートPCにレンダリングした、教頭のプライベートサーバーの全不正ログ。それを見た担任のりお先生は、咥えていたタバコの灰がソファに落ちるのも構わずに、これまでにないほど激しく憤慨していた。


「――あの教頭、政府側の派遣枠でこの学校に居座っておきながら、裏の巨大組織と勝手に常時同期して地脈を売り渡そうとしてたわけ? いい度胸じゃない、本当に」


 りお先生はソファから立ち上がると、個人の暗号化デバイスをひったくるように掴み、政府への直通バックドアへと即座にダイレクトコールを発信しやがった。


「あ、私よ。……今すぐそのババアに電話繋ぎなさい」


 呼び出し音が数パケット鳴った後にスピーカーからログインしてきたのは、現・政府の最高権力者である麗子総理の、冷徹で、だけどどこか楽しげな音声ログだった。


『あら、りお。この管理回線に直接チクりを入れてくるなんて、よほど最悪なイレギュラーバグでも見つけたのかしら?』


「ええ、大バグよ。同じ政府の派遣枠である教頭のオッサン、裏社会の暗号ドメインと繋がって勝手に地脈反転パッチを走らせてたわ。晴明たちが証拠ログを100%サルベージしたから、今から全データをそっちへマージするわよ」


『……なるほどね。土蜘蛛の時の官僚だった藤原といい、政府の身内にまで、そんな最悪なバックドアが仕込まれていたわけね』


 麗子総理のトーンが、一瞬にして裏社会の最高アドミンに相応しい絶対零度の冷徹さへと変化する。だが、総理はすぐにフッと鼻で笑うようなパケットを返してきやがった。


『いいわ、りお。その掃除屋の子供たちに伝えなさい。――その教頭のアカウント、政府の許可の元で、今すぐそっちの手で好きなように社会的・物理的に完全デリートしなさい、ってね』


「最高のお墨付き、サンキューだわ」


 通話が一方的に切断され、りお先生はデバイスをポケットに叩き込むと、俺と博雅、緊張した面持ちの道満の顔を代わる代わる見据え、最高に獰猛で不敵な笑みをレンダリングさせやがった。


「――聞いたわね、晴明。あんたたち、明日の朝一番に学校へ行きなさい。そして、あの教頭がいる職員室の重いドアを、力ずくで蹴破って突入しなさいッ!!」


「……はは、最高やんか! 担任公認の職員室ブレイカーかよ!」


 俺はポケットから五芒星のジッポを抜き出し、掌の中でカチャリと冷たい金属音を響かせながら、心底楽しそうに笑ってやった。


 ――放置されていた時間のログが動き出す、明くる朝の登校時間。


 ドガァァァァァァァァンッッッ!!!!!


 学園中に響き渡るほどのけたたましい爆音と共に、職員室の分厚く重い防音ドアが、俺の無色の氣を乗せたローキックによって力ずくでヒンジごとブチ破られ、廊下の床へと派手に転がっていった。


「――っ、な、何事ですか!? お前たちは停学処分の最中のはずだろ……ッ!?」


 デスクの奥で朝の書類スキャンを行っていた教頭が、ハゲ頭の処理回路を完全にショートさせながら、白目を剥きかけて立ち上がった。

 だが、その防衛プロトコルを完全に無視して真っ正面からログインした俺たちの真ん中から、有世が一歩前に踏み出し、ノートPCの画面を教頭のニヤケ面に真っ直ぐ叩きつけやがった。


「言い逃れのアドレスは無駄です、教頭。……あなたのアカウントが外部の裏組織と常時同期し、学園の地脈を反転させていた全証拠、たった今麗子総理の最高管理回線へもマージを完了させました」


「――ッ!??!?!」


 有世のその冷徹な宣告を受信した瞬間、教頭の顔面が、システムクラッシュを起こしたように醜く引きつりやがった。

 すべてがバレた。社会的アカウントの完全消去を確信したその刹那、教頭の全身から、これまで隠蔽されていた裏組織直系の、おぞましくドス黒い特級の呪術トラフィックが怒涛のウェーブとなって職員室全体へと噴き出し始めやがった。


「……お前ら、掃除屋のガキどもがァァァッ!! だったらここで、お前らの生体ログごと、この学園のメインサーバーを丸ごと道連れに破壊してやるわァッ!!」


 ハゲ頭から血の血管を浮き上がらせ、教頭が独自の特級術式を剥き出しにして、牙を剥きながら俺たちのログイン座標へと猛烈に襲いかかってきやがった。


「やりたかないねー、ホンマによー……! だけどこれで、本当のゲームセットやわッ!!」


 博雅が黄金の氣を爆音と共に両拳にブートし、道満が戦闘用コートの袖をバサッと引きちぎるように腕を捲る。


 さぁ、怪談ストリートの喧嘩の時間だわ。

 学校のナンバーツーだか裏組織の犬だか知らねえが、俺たちの日常を汚したツケは、そのハゲ頭に特級の拳で骨の髄まで叩き込んでやんよ。

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