第三十四話:ステルス・ログインと二重の認識阻害
深夜零時。昼間の賑やかなピンク色のノイズが完全にログアウトした学園は、まるで巨大な眠れるメインサーバーのように、夜の静寂の中に沈み込んでいた。
俺たちは停学処分の檻を完全に抜け出し、旧校舎の影をなぞるようにして、教頭の端末が眠る職員室ドメインの直下へとログイン(接近)を完了させていた。
「――ジャミング、ブート。土御門流・音響および視覚妨害プログラムを起動します」
有世がノートPCを膝の上で開き、そのシャープな指先でエンターキーを静かに叩いた。
画面上のインジケーターが緑色に同期され、職員室周辺に据え付けられたすべての防犯カメラと警報センサーのログが、有世のハックによって一時的なループ映像(偽データ)へと上書き(オーバーレイ)されていく。
「外周のトラフィックは俺がスキャンしとく。教頭の私設回線が不審なアラートを職員室外へ送信し始めたら、即座に黄金の氣で通信線ごと遮断(物理タスクキル)してやるからな」
博雅が両拳の氣を低く滾らせながら、夜の闇に紛れて死角のポジションへと滑り込んでいった。
「晴明、うちらもログインするで」
道満が戦闘用コートの袖を捲り上げ、不敵な笑みを浮かべながら俺の顔を覗き込んできた。
「あぁ。だけど、今回は教頭のクソねちっこいアドミン権限が相手だわ。あの土蜘蛛相手の時みたいに一パケットの油断もできへんよ。――ログインしろ、【太裳】」
俺はポケットのなかで五芒星のジッポをパチンと冷たく鳴らし、影の底から隠蔽特化のシステム権限をフルブートした。
現れた太裳の清廉な霊気が、有世の電子ジャミングにオーバーレイされる形で、俺たちの生体ログや霊的波形のすべてを学園の空間から完全に隠蔽(二重認識阻害)していく。前回の脆弱性をアップデートした、俺たちの本気のステルスパッチだ。
「よし、これで教師側のセンサーからは完全にステルス(隠蔽)されたわ。……道満、お前のエース(鬼神)を走らせろ」
「了解やんか。――うちの大切な仲間を弄んだバグの証拠、根こそぎ奪い取ってきぃな」
道満が両手の指を鋭く交差させて、芦屋流の深層暗号(九字)を最速でコンパイルした。
奴の足元に広がった漆黒の影のドメインから、一パケットの足音も、一ビットの気配すらも完全に隠蔽した二つの巨影――風神と雷神が、滑るようにして夜の職員室のドアの隙間から内部へとログイン(隠密侵入)していった。
教頭が仕掛けた最悪のバックドアを暴くための、真夜中のカウンターハックが、今まさに静かにブートされた。




