第三十二話:カウンター・コードと教頭のアカウント
ノートPCの液晶画面が、三人目の教員の顔写真をどす黒く浮かび上がらせていた。
その白髪混じりの、いつも規律を盾に俺たちをねちねちと監視してくる男のテクスチャ。
「……三人目の容疑者。それは――教頭や」
俺がその名前を冷徹に吐き出すと、博雅がデスクをドンと叩いて身を乗り出し、道満が「やっぱり、あのクソねちっこいオッサンやったんか……!」と、忌々しそうに唇を噛み締めた。
「教頭か……。まぁ、元々校長か教頭が怪しいとは考えてはおってんけどな……」
俺は椅子の背もたれに頭を預け、ジッポの蓋をパチンと鳴らしながら、脳内OSに常駐していた推論ログをデコード(開示)した。
「校長と教頭は、俺たちがこの学園の地脈の淀みを処理する裏の『掃除屋』やということを最初から知っとる。それだけやない。俺たちの担任のりお先生が、政府からの俺たちへの管理者(お目付け役)だということすら全部知っとる立場(権限)の奴らだからな。太裳の隠蔽パッチの存在を知り、それを裏から意図的にクラッシュさせて俺たちのタバコをチクるなんて嫌がらせができるのは、そのアドミン権限を持っとる教頭くらいしかおらんのよ…」
「――なるほどな。掃除屋としての俺たちの動きを封じるために、あえてタバコ通報っていう一般生徒用の学則パッチを使って、一週間も学校から隔離しにきたってわけか」
博雅が黄金の氣を低く滾らせ、繋がった因果律に拳をぎゅっと握りしめる。
「ふん、うちらを檻(停学処分)に閉じ込めたつもりになってる教頭のニヤケ面が目に浮かぶわ。最高に胸クソ悪いやんか」
道満が不敵に笑いながらも、その爛々とした瞳に芦屋流の殺気のパケットを同期させていく。
「ですが晴明先輩。教頭がこちらの動きをフリーズさせたと思っている今こそ、こちらのメインシステム(反撃)をブートする最大のチャンスです。停学処分という学校側の檻を、そのまま監視の届かない死角(バッファ領域)として逆手にとればいいのです」
有世がシャープな目のままタブレットの画面を切り替え、探偵事務所のデスクの上に、今度は教頭の裏回線を逆ハックするための幾何学的な『迎撃作戦』のコードをレンダリング(展開)しやがった。
なぁ、あんたならどう思う?
タバコがバレて一週間の家庭謹慎を食らったはずの不良生徒たちがさ。その日の夜には、探偵事務所の狭い部屋で珈琲を啜りながら、学園のシステム中枢に常駐する教頭のアカウントを根こそぎタスクキルするための、超本格的な逆ハックの作戦会議(情報戦)を回してるんだ。
向こうが学則という壁を使って俺たちのリソースを制限しにくるなら、こっちはその死角から、芦屋の呪術と安倍家の特級出力を掛け合わせた最悪のカウンタープログラムを流し込んでやるだけだ。やりたかないねー、ホンマによー!
「よし、ほんなら作戦会議をブートすんぞ。教頭のクソみたいなバックドアを根こそぎ上書き(デリート)して、あのハゲ頭を強制シャットダウンしたるわッ!!」
俺は深くタバコの煙を吐き出し、液晶画面に映る教頭の顔写真に向けて、五芒星のジッポを冷たく鳴らしてやった。




