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第三十話:バックヤードの解析と黒幕のプロファイリング

 りお先生から一週間の停学処分(謹慎エラー)を叩きつけられた、その日の放課後。

 学校の敷地内から物理的にデリート(強制下校)された俺たちは、ホームグラウンドである喫茶「フォックス・テイル」の二階――クソ親父の探偵事務所セクターを臨時のアジト(デバッグ拠点)としてジャックしていた。


 ソファの上には、一階から母ちゃんが持ってきてくれた珈琲の香りが気怠く漂っている。だが、それを優雅にハックしている暇なんか一ビットもありゃしねえんだ。


「――晴明先輩、博雅先輩、道満先輩。学校のメインサーバーから私の私設暗号回線バックドア経由で、職員室の全アカウントリストの暗号ログをこの端末へ引っ張ってきました」


 有世が探偵事務所のデスクをジャックし、持ち込んだタブレットを高速で叩いて、現場の座標ログを俺たちに同期(共有)する。

 画面へ一括ダウンロードされたのは、学園に在籍するすべての教職員の顔写真、経歴、そして霊的トラフィックの履歴ステータスの膨大なデータだ。


「有世、サンキューな。……よし、それじゃあプロファイル(絞り込み)を始めんぞ」


 俺が画面を見つめながらキーボードを叩くと、博雅が真剣な顔で身を乗り出し、道満も珈琲カップを置いて画面のリストを鋭くスキャンし始めた。


「晴明の太裳タイショウの認識阻害を裏からクラッシュさせて、ピンポイントでチクりを入れた奴やろ? そんなチートコードを走らせられるほどの特級の陰陽師ハッカーが、教師のなかに紛れ込んでるってことなんよな」


 博雅が黄金の氣を低く滾らせながら、腕を組んでそうクエリ(疑問)を口にした。


「そうやんか。普通の先生のアカウント(霊力)やったら、うちの芦屋流の防壁すら突破でけへんよ。太裳のセキュリティパッチを上書きデリートできるほどのプロトコルを持っとる奴なんて、このリストの中にそう何人もおるわけないやんか」


 道満が画面に並ぶ教師の顔写真を指先でなぞりながら、いつもの調子で不敵に笑い、容疑者ノイズを弾いていく。


なぁ、あんたならどう思う?

つい昨日まで学園の怪談を相手にスタイリッシュにタスクキルしてたはずなのにさ。学校を追い出された途端に、今度は自分たちをチクった『教師のなかの裏切り者』を暴き出すために、探偵事務所の狭い部屋で深夜のサーバーハック(プロファイリング)に没頭させられるんだ。


 だけどな、有世の叩き出したディープスキャンによって、数十人いた教職員のデータは、みるみるうちに数人の『特級エラーコード』へと絞り込まれていきやがったんだ。


「……待て。この三人のアカウント、霊的トラフィックのアクセス履歴が、二年前のあの『メリケン波止場』の地脈の淀みと、奇妙なパケットで同期(通信)しとるな」


 俺が画面をトントンと鋭く叩いた瞬間、アジトにいる俺、博雅、道満、そして有世の脳内OSに、ぞくっとするような最悪のバグフラグが点滅し始めた。


 終わりの始まり。

 七不思議という壮大なプロローグを仕組んだ黒幕、出来レースのように職員室の内部から俺たちをハックしにかかっている見えない敵の正体が、この漆黒のリストの奥底から、今まさに不気味にレンダリングされようとしていた。

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