第二十九話:停学処分とサーバー内の内通者
合わせ鏡の配置データから「意図的な悪意」が暴かれた、その翌日の放課後。
俺たちは生徒会室のメインサーバーの前に集まり、旧校舎の廊下に残された不可解なアクセスログ(姿見を動かした形跡)について、ディープスキャンを走らせていた。
有世がタブレットを高速で叩いて地脈データを解析し、博雅が腕を組んでそのログを見つめ、道満が自分の影の底に残る呪の残響を調整している。学園の監視網に引っかかった微細なパケットを一つずつデコードしていく、静かな日常サスペンスのタイムラインだ。
だが、その張り詰めた空間のプロトコルをぶち破るようにして、生徒会室のドアが容赦なくスライドされやがった。
「――はい、そこまで。全員一回、その手を強制停止しなさい」
冷徹で、だけどどこかストリートの乾いた空気をまとった音声ログ。
ログインしてきたのは、気怠くフレアスカートを翻した俺たちの担任――りお先生だった。
「りお先生? 何やねん、今ちょっと重要なデータ(黒幕の足跡)をスキャンして忙しいんだわ」
俺が椅子の背もたれに頭を預けたままぼやくと、りお先生は手にした一枚の通知用パケット(書類)を、俺の机の上へとドンと叩きつけやがった。
「安倍君。あなたに、今日から一週間の停学処分)を言い渡すわ。ついでに博雅、道満、あなたたち二人も同罪ね」
「――はぁ!? 何でやねん!!」
「俺たちまで停学処分ですかっ!?」
道満がメロンソーダの残響を忘れたような悲鳴を上げ、博雅が驚愕で上体を跳ね上がらせる。
俺は机の上の警告ログを睨みつけながら、心底だるそうに頭をガシガシと掻いた。
「おい、意味がわからんわ。俺のタバコ、いつも【十二天将・太裳】の認識阻害で、学校の監視網(教師の目)からは完全に隠蔽されとるはずやろーが」
そうなんだわ。太裳の張る隠蔽結界は、一般人や普通の教師の網膜OSを誤認させる特級のセキュリティプログラムだ。それがすり抜けて、今更バレるなんてシステム上の仕様としては絶対に有り得ねえんだ。
「そうよ。あなたの太裳の認識阻害は完璧だったわ。だけどね、職員室のメインサーバーにさ、あんたが旧校舎の女子トイレのセクター前でジッポを鳴らして一服してるピンポイントの映像ログが、ご丁寧に通報メッセージ付きで一括ダウンロード(直通通報)されたのよ。源君と芦屋さんは、一緒にいたのにそれを止めなかったっていう連帯責任の理由で処理されたわ」
りお先生は、咥えたタバコ(こっちは正規のアカウントだ)の煙をふぅと吐き出しながら、冷徹な目で俺たちの網膜をロックオンしてきた。
なぁ、あんたならどう思う?
学校の怪談プログラム(七不思議)を命がけで全部タスクキルしてさ、ようやく黒幕のアカウントを追いかけようとした最初の1パケット目で、まさかの『タバコ通報』っていう超アナログな学則違反バグで、生徒会メンバーが丸ごと一週間オンライン(登校)禁止にさせられるんだわ。
だけど、りお先生がわざわざこのタイミングで、自分の管理権限を使って生徒会室にまで直接このログ(通知)を届けにきた理由は、単なるお説教なんかじゃなかった。
「……安倍君、源君、芦屋さん。これはただの学則違反の処理じゃないわ。職員室のなかで、あなたの太裳のセキュリティを裏から意図的にクラッシュ(解除)して、この停学処分のタイムラインを強引に走らせた奴がいる。……つまりね、このタイミングであなたたち最高管理者を学校から排除したがってる『敵』が、教師側のサーバーの内部(職員室)にログインしてるってことよ」
「――ッ!?!?!」
りお先生のその冷徹なソースコード(警告)が室内に同期された瞬間、俺、博雅、道満の脳内OSが、冷水を浴びせられたように一瞬で凍りついた。
教師側のドメインに潜む、見えないクラッカー。
七不思議というプロローグの鏡を動かし、俺たちの過去のトラウマを弄んだ黒幕の回線は、すでに学園の最高意思決定機関にまで深く常駐ハック(侵食)を完了させていやがったんだ。
「……はぁ。やりたかないねー、ホンマによー……。身内にまで最悪なバックドア(内通者)が仕込まれてやがったか」
俺はポケットから五芒星のジッポを抜き出すと、カチャリと冷たい金属音を掌の中で響かせ、りお先生の突きつけてきた停学届をじっと見つめた。
終わりの始まり。七不思議をクローズした瞬間にブートしたこの春の本編は、学校という最も身近なドメインの底から、底なしの殺意を含んだノイズを撒き散らしながら、俺たちの怠惰なタイムラインを侵食し始めていきやがるんだ。




