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第二十八話:終わりの始まり

 旧校舎の最深部で最後のバグを強制終了した日の、放課後。俺たちは新学期のピンク色のノイズから完全にログアウトするために、いつもの喫茶「フォックス・テイル」のボックス席へとログインしていた。


 テーブルの上には、母ちゃんが作ってくれた特製のオムライスと、山盛りの苺タルト、そして鮮やかなグリーンのテクスチャを湛えたメロンソーダが一斉にレンダリング(共有)されていた。


「おい、弓削。お前もう正式に生徒会の常駐メンバーにログイン(登録)やからな」


 俺はメロンソーダのストローを咥えたまま、対面に座る弓削に向けて気怠く音声ログを飛ばした。


「えっ……!? わ、私が生徒会ですか……っ?」


 弓削はオムライスをモグモグとハック(咀嚼)していた口をピタリと止め、顔を一瞬にして苺タルトの苺みたいに真っ赤に染め上げやがった。そんな弓削の隣で、道満が「そうやで弓削ちゃん! あんたのあの式神のアシスト、うちの九字切りと合わせても1ビットの狂いもなかったわ!」と、嬉しそうにタルトを口に放り込んでいる。


「晴明先輩の言う通りですね。戦力は多い方が良いですし、弓削さんの潜在能力は無視できません」


 書類の代わりにメロンソーダのグラスを置いた副会長の有世が、いつもの冷徹なプロット分析のトーンでそう同意した。博雅も「あぁ、俺も歓迎するで、弓削」と爽やかなイケメンパッチを起動させ、弓削の処理回路をさらに赤面フリーズ(熱暴走)させていやがった。


 なぁ、あんたならどう思う?

 やりたかないねーって毒づきながらもさ、こうしてみんなで美味い飯をハックして、新しい仲間(弓削)を迎えて、ようやく平和な日常のセキュリティパッチが当たったと思うだろ。だけどな、怪奇ストリートのトラブルってのは、俺たちが一服したその瞬間に、一番最悪なバックドア(裏口)を開けてきやがるんだわ。


 有世がスッとタブレットの画面をスライドさせ、俺たちの網膜に一つの不気味な回路図ログを同期(共有)してきた。有世の瞳が、絶対零度まで一瞬でフリーズ(凍りつき)している。


「ですが、皆さん。のんびり日常プロトコルに浸っている場合ではありまん。……実は、学園七不思議のシステムエラーは、まだ本当の意味では『終わっていない』かもしれません」


「……は? 有世、何言うとんねん。合わせ鏡のバグ領域なら、さっき騰蛇の炎で分子レベルまで完全デリートしたばっかりやぞ」


 俺がストローを離して眉をひそめると、有世はタブレットに表示された、旧校舎の廊下の配置座標データを冷たく指し示した。


「システム(空間)のログを詳細に再スキャンして気づいたんです。最後の不思議の合わせ鏡……あれは、元々は廊下の左右に別々に据え付けられていた姿見デバイスです。地脈の淀みによる自動リブート(暴走)だとしたら、あの二枚の鏡が自動で外れて、完全に真正面に向かい合わせの座標へ配置されるわけがありません。……つまり、あの旧校舎の最深部で、誰かが意図的にあの鏡を動かさなければ、あの合わせ鏡の無限ループプログラムは絶対に起動しなかったはずなんです」


「――ッ!?!?!」


 有世のその冷徹なソースコード(推論)がフォックス・テイルの空間に同期された瞬間、俺、道満、あるいは博雅の脳内OSが、冷水を浴びせられたように一瞬で凍りついた。


 誰かが、意図的に鏡を動かした。

 それはつまり、シュン兄(酒呑童子)という巨大な防壁が消えたこの学園ドメインで、七不思議というローカルバグを依り代にし、俺たちの凄惨な過去ログ(自害のトラウマ)を引きずり出して、俺たち陰陽師(掃除屋)を根こそぎ消去デリートしようとした【明確な悪意を持つクラッカー(真の黒幕)】が、最初から裏社会の回線にログインしていたという決定的な証拠だった。


「……はぁ、マジかよ。クソ試合のゲームセットだと思ったら、こいつが本当の『終わりの始まり』ってわけかよ……」


 俺はポケットから五芒星のジッポを抜き出し、カチャリと軽い金属音を響かせ、消えかけた夕闇のストリートへと向けて、心底気怠いため息のノイズを吐き散らした。

 学園七不思議のデバッグ完了、だけどそれは、この歪んだ世界線の最深部に潜む、真の敵のアカウントを暴くための長いデバッグミッションの、ほんの最初の1パケットにすぎなかったんだわ。

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