第二十七話:エンド・オブ・ループ・七不思議の強制終了
――ガガガ、ズガガガガガッッッ!!!!!
鏡面を突き破ってログインしてきた、俺たちの凄惨なデリートログ(残像)。血生臭い異臭を放ちながら襲いかかるその猛攻に対し、晴明の一喝で戦闘用OSを強制リブートさせた道満が、即座に黒い呪術のトラフィックを地へと叩きつけた。
「うちの無惨な姿を、いつまでも現世に常駐させとんちゃうわッ! ――【風神】! 【雷神】!!」
道満の影から解き放たれた漆黒の二体の鬼神が、旧校舎の天井を揺らすほどの黒い嵐と雷鳴のウェーブを巻き起こす。その圧倒的な金気の殺界が、胸をえぐられた道満の残像を捉え、一パケットの容赦もなく分子レベルで一括消去していった。
「――俺の無念も、ここで完全に打ち払らったるわッ!!」
間髪入れずに、博雅が限界突破した純度100%の『黄金の矢』を弓へと番える。
眩い閃光を放って放たれた一撃は、泥水に倒れた博雅の残像へと一直線に突き刺さり、その凄惨なテクスチャを光のパケットへと完全に粉砕した。
二人のデバッグ作業は完璧、かつ順調そのものだった。
だが――誰もが予想していなかったイレギュラー・エラーが、まさにその中央セクターで発生していやがった。
「――チッ、やりたかないねー、ホンマによー……ッ!!」
俺は奥歯を噛み締めながら、全身から無色の氣を最大出力で噴出させていた。
まさか、最高管理者であるこの俺自身が、自らの『ナイフで首を切り裂いた自害の残像』を相手に、一番手こずることになるなんてな。
自害した俺の残像が操るドス黒い炎の術式と、俺の無色の氣が、旧校舎の廊下で激しく衝突して火花を散らす。一進一退の術の応酬に、全員が息を呑む。
二年前、二人を生き返らせるために自分を一番汚い形で壊したあの時の制約――魂の永遠に癒えない傷が、自分自身の残像と刃を交えることで、肉体ごと内側から焼き切られるような激痛となって俺の演算回路を麻痺させにかかっていやがったんだ。
「晴明……っ!?」
「あかん、晴明の術の出力が、奴の絶望のノイズに押し負けそうになっとる……ッ!」
博雅と道満が、その一歩も引かない特級同士のコードの鬩ぎ合いに、呼吸を忘れて固まる。
自害した晴明の残像が、俺の首筋を狙って冷たいナイフの軌道をレンダリングさせた、まさにその極限のタイムリミットだった。
「――そこを、退きなさいッッ!!!!」
旧校舎の廊下の隅で戦戦況をディープスキャンし続けていた新一年生――弓削の瞳の奥で、弓削家の正統なる霊気が大爆発を起こしやがった。
空間のテクスチャを強引に引き裂いてログインした、あの巨大な二頭の『式神の猛犬』が、自害した晴明の残像の死角へと獰猛に飛びかかる。その強固な顎が、残像の影のコードをガチッと噛み止め、一ビットの身動きも許さない完璧なシステム拘束(隙)を作り上げやがったんだ。
「弓削……っ、ナイスアシストだわッ!!」
俺は一歩前に踏み出すと、脳内の演算回路を限界のクロックアップまで引き上げ、右手の指先だけで一瞬にして複雑な印をコンパイルした。
「――ログインしろ、【六合】!! 【騰蛇】!!!」
俺の放った無色の氣が強固な立方体の光の檻へと反転し、弓削の式神に噛み止められていた自害晴明の残像、底なしのノイズを放っていたあの合わせ鏡の本体(姿見)ごと、周囲の座標をガチッと金剛結界の内部に密閉した。
外界から完全に隔離され、逃げ場を失った最後のバグの核心を見据え、俺は影の底から解き放たれた騰蛇の黒紫の極大火炎を、その檻の内部へと一気に流し込んだ。
「――騰蛇ァッ!! その最悪な自害の残響ごと、鏡の無限ループプログラムを根こそぎ粉砕しやがれェェェッッッ!!!!」
――ドゴォォォォォォォォンッッッッ!!!!!
旧校舎の最深部を完全に消し飛ばさんばかりの爆音と共に、騰蛇の【火生三昧】の黒紫の業火が、六合の結界の内部で大爆発を起こした。
あの日と同じ冷たい雨のノイズも、ナイフで自らの首を切り裂いた凄惨な自害のログも、そして地脈の底から特級エラーを回し続けていた二枚の合わせ鏡のソースコードも、逃げ場のない結界の中で分子レベルで完全に焼き切られ、一パケットの残響も残さず永久にデリートされた。
パァンッ、とガラスが割れるような美しい電子音が旧校舎に鳴り響き、空間を支配していた血生臭い異臭と雨のノイズが、一瞬にして元の静かな昼休みの日常へと反転していった。
「……ふぅ。これで、学園七不思議、最後のデバッグも完全クローズ、だわ」
六合と騰蛇を静かに影の底へとログアウトさせながら、俺はそこでようやく、ポケットから五芒星のジッポを抜き出し、カチャリと軽い金属音を響かせてタバコに火を点けた。
足元には、全ての力を使い果たしてその場にへたり込みながらも、安心したように小さく笑っている弓削の姿があった。
なぁ、あんたならどう思う?
シュン兄っていう巨大な防壁が消えたせいでさ、自分の過去の最悪な自害ログまでラスボスとして強制起動させられる羽目になったんだわ。だけどな、新しくログインしてきた弓削の式神と、俺たちの絆のコンボの前に、そんな型落ちのバグコードがいつまでも居座れるほど、この学園ドメインのセキュリティは甘くねえんだわ。やりたかないねー、ホンマによー!
俺はジッポの蓋をパチンと閉めると、まだカタカタと震えている弓削の頭を気怠く、だけど少しだけ優しくワシャワシャと撫で回してやった。
学園七不思議のデバッグ完了。俺たちの新しいストリートのタイムラインは、こうして不穏なノイズを孕みながらも、また新学期の日常へと静かに動き出していきやがるんだわ。




