第二十六話:デバッガーの覚悟とバグログの強制排除
――パリン、パリンッ、と。
合わせ鏡の境界線を物理的にぶち破り、強烈な血生臭い異臭と、あの日と同じ容舎のない冷たい雨のノイズが旧校舎の床へと侵食し始めやがった。
鏡の奥から這い出てきたのは、自らナイフで首を切り裂いて「自害した俺」、胸をえぐられて「死んだ道満」、泥水に倒れて「死んだ博雅」。
何回見ても五臓六腑がひっくり返るほど嫌な気分になる、あの雨の日の惨劇のトラウマ。その生々しいフラッシュバックを前に、博雅と道満の足元が、一瞬だけ泥を掴まれたように鈍くフリーズ(硬直)しちまった。
「……っ、晴、明……」
「あかん、あの日の雨の音が、頭のメモリの中で鳴り止まへん……っ」
二人のステータスが罪悪感と絶望のノイズで処理落ちしかけ、実体化した過去のデリートログ(残像)どもが、俺たちの生体アカウントを根こそぎ消去しようと、おぞましい爪を振り下ろしてきたまさにその刹那――。
俺はポケットから五芒星のジッポを抜き出し、カチャリと軽い金属音を響かせ、いつもの気怠い仕草で、だけど誰よりも鋭い目の色のまま、博雅と道満の前に立ちはだかった。
「――あー……そのバグは、去年消し去り済みやわ」
俺の口から吐き出された、最大級のスルー・プロトコル(一喝)。
あの日、俺が自分を一番汚い形で壊して、魂に永遠に癒えない傷を負ったのは事実だわ。
だけどな、そんな過去のトラウマコード(嫌な記憶)にいつまでもハックされて、今の日常のタイムラインをクラッシュさせられてやる義理なんか、俺には一パケットもありゃしねえんだ。一年前の土蜘蛛編で、俺たちはもうその絶望を自らの手で完全デバッグ(クローズ)してんだよ。
「博雅、道満! いつまで型落ちのゾンビプログラム(死に顔)相手に処理落ちしとんねん!
そいつらは俺たちの絆の成れの果てなんかじゃねえ、ただのシステムのバグ(嫌がらせ)だわ! ――プロのデバッガーにかけて、全員まとめて一括強制終了やッ!!」
俺の不敵な音声ログが旧校舎の最深部に響き渡った瞬間、博雅と道満の瞳から絶望のノイズが一瞬にして全デリート(完全消去)され、戦闘用OSが最大出力でリブートした。
博雅の両拳に再び爆音と共に黄金の氣が滾り、道満の指先が鋭く交差して、七体の鬼神たちを再ログインさせるためのドス黒い呪術のトラフィックが地を幾重にも幾重にも這う。
最高管理者のアカウントをかけた、第七の不思議――真のラスボスとの、最後のデバッグ戦闘の火蓋が、今ここに完全ブート(開始)された。




