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第二十三話:火生三昧と水の癒しのリカバリー

 ――ガァァァァァンッ!!!!

 狂気に染まった弓削が放つ、二頭の式神の猛犬の獰猛な牙が、凄まじい衝撃波を伴って俺たちのログイン座標へと突き刺さる。


 だが、その凶暴な一撃を正面からガチッと受け止めたのは、一ビットの躊躇もなく前に飛び出した博雅の『黄金の氣』だった。


「――弓削! 正気に戻れッ!!」


 博雅は全身から眩い光の防壁を展開し、弓削の式神の猛攻を文字通り無傷で完全にホールドしやがった。相手を傷つけず、だけど絶対に一歩も通さない源家の鉄壁のフィジカルだ。


「タイムラインは貰ったで! ――【芦屋流・九字切り:精神遮断パッチ】!!」


 博雅が稼いだその一瞬の隙を突き、道満が両手の指を激しく交差させて鋭い九字を切った。放たれたドス黒い呪のコードが、暴走する弓削の額へと一直線に突き刺すと、肖像画から流し込まれていた狂気の精神ハックプログラムを裏から強制切断する。


「……あ、え……?」


 瞳の濁った紫色のノイズが消え、弓削がその場に力なく膝をつくと同時に、二頭の式神の猛犬が煙のようにログアウトしていった。


「有世、弓削のガードを頼むわ! ――ここからは、俺のアドミン権限の時間だわッ!!」


 俺は一歩前に踏み出すと、超高速のパラレル演算で複雑な印を連続結印し、影の底から二つの特級システム権限を同時ブートした。


「――ログインしろ、【六合】! 【騰蛇】!!」


 俺の放った無色の氣が空間を引き裂き、強固な光の立方体結界をレンダリングして、イーゼルの上の泣く肖像画の周囲の座標だけをガチッと密閉した。


 外界から完全に隔離され、結界の箱の中で狂暴に血の涙を撒き散らす怪異の本尊を見据え、俺は影から解き放たれた騰蛇の黒紫の極大火炎をその檻の内部へと一気に流し込んだ。


「――騰蛇、その血の涙ごと焼き尽くせッッ!!!!」


 ――ドガァァァァァァァァンッッッ!!!!!


 六合の結界の内部で、騰蛇の【火生三昧】の黒紫の業火が爆発した。過去に挫折していった人間どものドス黒い劣等感や憎悪のログも、イーゼルのキャンバスも、逃げ場のない結界の中で分子レベルで完全に焼き切られ、悲鳴のようなエラー音と共に一パケットの残響も残さずデリートされやがった。


 パァン、とガラスが割れるような電子音が響き、美術室を覆っていた最悪な液体ノイズが綺麗に消滅していく。


「……ふぅ。これで五つ目も、クローズやな。せやけど、まだ仕事は残っとんねん」


 俺は六合と騰蛇を静かにログアウトさせると、最後に残されたもう一つの印を優しく結んだ。


「――ログインしろ、【天后】。……極上のリカバリーパッチ、全方位展開や」


 俺の影から静かに姿を現した水の女神・天后が、その両手から清廉で美しい水の波紋を美術室全体へとオーバーレイしていった。


 液体ノイズを浴びて精神メモリをクラッシュさせられていた美術部員や新一年生たち、あるいは倒れていた弓削の身体を、清らかな水の霊気が優しく包み込んでいく。傷ついたあいつらの脳内OSがみるみるうちに正常値へと修復され、全員が穏やかな寝顔を維持したまま、床の上で泥のように眠りについた。


「……ふぅ。今度こそ、一件落着やで」


 俺はそこでようやく、ポケットから五芒星のジッポを抜き出し、カチャリと軽い金属音を響かせてタバコに火を付けた。


 なぁ、あんたならどう思う?

 安倍家の特級火力と芦屋の九字、精度最高の博雅の防御、そして天后の水の癒しまでフルコンボで回してさ、ようやく昼休みの怪談デバッグが一つ片付いたんだわ。やりたかないねー、ホンマによー!


 だけど、これで学園七不思議の『第六の不思議』も無事に完全クローズされた。残るバグは、あと一つだ。

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