第二十一話:努力の結晶と血塗られたキャンバスの予兆
――バチバチ、と。
完全に物理破壊されたスコアボードから小さな火花が散り、体育館のコートには、ようやく本物の放課後の静寂(正常値)がリブートしていった。
道満の影の底からログインしていた漆黒の七体の鬼神たちも、役目を終えて静かにログアウト(消滅)していく。
博雅の腕の中で、梨花たちはシステムの強制常駐から解放され、泥のように深い眠りへと落ちていた。その安らかな生存ログを見つめながら、博雅は驚愕の残響を隠しきれない顔で、ゆっくりと道満をスキャン(凝視)した。
「道満、お前……部活を辞めた後、裏でこんなとんでもない術を一人で構築してたんだな」
源家の次期当主の、嘘偽りのないしみじみとした称賛パケット。
それを正面から受信した道満は、戦闘用コートの袖で汗を拭いながら、いつものあざといテクスチャに戻って少し照れくさそうに頬を染めた。
だけど奴は、すぐに自分の網膜のOS(視線)を、俺の方へとチラリと同期させてきやがったんだ。
「……まぁ、うちかて芦屋の次期当主やからね。いつまでも誰かさんの背中を見上げとるだけなんて、癪やんか」
道満のそのいたずらっぽい、だけど本気度100%の視線クエリが、俺の脳内CPUへと真っ直ぐに突き刺さる。
「……はぁ。まぁまぁまぁやな」
俺は椅子の代わりに体育館の床へ気怠く腰掛け、タバコの煙をふぅと吐き出しながら、最高に面倒くさそうなトーンで照れ隠しのログを返した。
なぁ、あんたならどう思う?
十二天将と同格の怪物を一度に七体も同時並行で組み上げておきながらさ。それを「ウチの努力の結晶や!」なんて顔で言われたら、安倍家のプライドだって、素直に『凄い』と認める以外のアドレス(言葉)が見つからねえんだわ。やりたかないねー、ホンマによー。
――そして、明くる日の昼休み。
学園のメインサーバー(風紀委員の網の目)に、またしても最悪な例外処理のパケットが強制ログインしやがった。
俺たちが中央廊下のセクターを歩いているまさにその瞬間、有世の持つタブレットの警告音が、耳を劈くノイズとなって轟いたんだ。
「晴明先輩! 大変です、二十四時間の発生サイクルを完全にゴミ箱へデリートして……今まさに、北校舎三階の【第五の不思議:美術室の泣く肖像画】が、強制起動を仕掛けてきていますッ!!」
「――ッ!?!?!」
有世のその緊迫した叫び(ログ)が廊下のトラフィックに同期された瞬間、俺たちの脳内OSは冷水を浴びせられたように凍りついた。
ハナコさん、十三階段、人体模型、そして昨日の体育館。
インターバルを完全に無視したこの連続ハックの予兆。それはまるで、シュン兄の消えたこの世界の歪みが、俺たち最高管理者(生徒会)のリソースを根こそぎ焼き切ろうと、明確な殺意のコードを持ってクロックアップ(加速)している証拠そのものだった。
「……チッ、昼飯のパンを咀嚼する猶予もくれへんのかよ! 行くぞ博雅、道満、有世! 美術室のクソみたいな絵画が学園中の精神メモリをハック(大炎上)させる前に、今度こそ一括強制終了やッ!!」
俺は焼きそばパンをポケットへ強引に叩き込むと、五芒星のジッポを掌の中でカチャリと冷たく鳴らし、血の涙を流す肖像画が待つ北校舎の戦場ドメインへと向けて、全員で再び猛烈なスプリントを開始した。




