第二十話:オール・オーバーライト・コートの完全消去
十二天将と同格の出力を持った、純度100%の呪いの巨影が七体。
体育館のコートを埋め尽くす真っ黒な威容を背に、道満は息を荒らしながらも、不敵な笑みのまま前方を鋭く見据えた。
「――潰してこい!!」
道満のその短くも苛烈な命令が下された、まさにその瞬間だった。
――グォォォォォォォォンッッッ!!!!!
地脈の底を震わせるような咆哮と共に、漆黒の風神、雷神、龍神、牛頭、馬頭、前鬼、後鬼の七体が、一斉に暗黒の霧を切り裂いてコートへと突撃しやがった。
これまで梨花たちを永遠に走らせ、嬲り続けていた実体のない影のディフェンダー(ノイズ)どもが、一瞬にして迎撃のフォーメーションを組もうとする。
だが、十二天将と同格の化け物がまとめて七体だ。そんな子供騙しのローカルバグが通用するわけがねえんだわ。
漆黒の風神と雷神が凄まじい黒い嵐と雷鳴のウェーブを巻き起こし、影のディフェンダーどもをまとめてシステム拘束する。
そこへ龍神の巨体がコートのアスファルトごとノイズを粉砕し、牛頭と馬頭の巨大な質量が、残ったエネミーログを一瞬にして分子レベルで一括消去(強制デリート)していった。
前鬼と後鬼の禍々しい爪が空間ごとバグを切り裂くたびに、体育館を支配していたドス黒い霊気の霧が、ものすごい勢いで正常なテクスチャへと書き換え(オーバーライト)されていく。
その圧倒的な蹂躙劇の最中、コートの中央でスコアボードのタイマーだけが、必死に『00:00』からの無限ループプログラムを再起動させようと、不気味なノイズを点滅させていやがった。
「博雅! 梨花たちのサルベージを頼むわ! 晴明、あそこのクソみたいなタイマー(システムコア)ごと、根こそぎタスクキルするでッ!!」
「おう、言われんでも座標は完了しとるわ!」
博雅が黄金の氣を爆発させてコートへと滑り込み、ヘトヘトになって死にかけていた女バス部員――梨花たちの身体を一網打尽に抱きかかえて安全圏の踊り場へとサルベージ(救出)していく。
それと同時に、俺の騰蛇と道満のドス黒い呪術が、七体の鬼神たちの総攻撃と完全に同期した。
標的は、あの狂った無限ループを回し続けているスコアボードのタイマーだ。
「やりたかないねー、ホンマによー……。お前らのクソ試合は、たった今ゲームセット(強制終了)や!!」
――ドガァァァァァァァァンッッッ!!!!!
体育館の屋根を吹き飛ばさんばかりの爆音と共に、白光と漆黒のエネルギーがスコアボードへと直撃した。
無限のループを刻み続けていたタイマーが、火花を散らして物理的に粉砕される。
パァン、と空間が弾けるような電子音が響き、体育館を覆っていた歪なバグ空間は完全にデリートされ、いつもの静かな放課後の日常へと静かに反転していった。
「……ふぅ。四つ目も、完全デバッグ完了やな」
俺は床に倒れ込んだプラスチックの破片を見下ろしながら、ポケットから五芒星のジッポを抜き出し、カチャリと軽い金属音を響かせてタバコに火を付けた。
安全圏で博雅に抱えられ、ようやくシステムの呪縛から解き放たれて泥のように眠っている梨花たち。
道満の『努力の結晶』によって、学園七不思議の第四の不思議も無事にクローズされた。
だが、この短時間での連続リブート(常駐ハック)。ありふれた怪談の枠を完全に超え始めたこの学園ドメインのバグは、ここからさらに最悪な深層へと俺たちを引きずり込もうとクロックアップしていきやがるんだわ。




