第二話:怪談ログと三代目のスルー・プロトコル
「ええっと、まずは女子トイレの『三番目のハナコさん』やろ。それから夕暮れ時の『放課後の十三階段』に、夜中に廊下を走る『理科室の動く人体模型』、目が動く『音楽室のベートーベン』……」
生徒会室の長机の上に、苺タルトの空き箱と並べて、道満が可愛いピンクのペンで細かくメモされたノートを広げ、熱心に学園の怪談ログを一つずつデコード(説明)し始めた。
「それだけやないで。早朝にバッシュの音が響く『午前四時の体育館』に、血の涙を流す『美術室の泣く肖像画』……。最後が、夜の旧校舎の姿見を使った『旧校舎の合わせ鏡』。これで合計、きっちり七つや!」
フンス、と鼻を鳴らしてコートの袖を誇らしげに揺らす道満。
その隣で、世界史の教科書を開いたまま真面目にメモを取っていた博雅が、「なるほど、どれも俺たちの世代からずっと囁かれている、ありふれた噂だな……」と、硬い表情で顎を撫でた。副会長の有世も、腕を組んでその全7つのトラフィック(噂話)の精査に入っている。
だが、その張り詰めた生徒会室の空気をぶち破るように、俺は椅子の背もたれに頭を預けたまま、心底ダルそうに長いため息を吐き出した。
「……なぁ、道満」
「何や、晴明。うち、これでも新入生たちがロータリーで喋っとったアクセスログ(噂話)をしっかりスキャンして集めてきたんやで?」
不満げに頬を膨らませる道満の視線を、俺は炭酸の抜けたコーラのストローを咥えたまま、冷めた目で受け流した。
「いや、あのなぁ。その七不思議だか何だか知らねえけどさ……。それって一般の生徒は怖がるかも知れんけど、俺たちに意味あるか?」
「……え?」
道満のピンクのペンがピタリと停止する。俺はポケットから五芒星のジッポを抜き出し、カチャカチャと軽い金属音を響かせながら、気怠くソースコード(本音)を吐き出した。
「ただのありふれた、どこにでもある学校の怪異だろ。そんな一般生徒のフォルダ(噂)を、なんで生徒会長になった俺の貴重な怠惰リソースを割いてまで、一つずつデバッグしにいかなきゃなんねーんだよ。お前らがオカルト同好会ごっこしたいなら、俺を巻き込まずに三人で勝手にやってくれよ、ホンマによー……」
俺の最大級のスルー・プロトコル(拒絶命令)に、生徒会室内が一瞬、静かな処理落ちを迎えた。
だが、俺たちがそんな呑気なシステムエラーを決め込んでいられたのは、本当に、この数秒の間だけだったんだ。
――ガガガ、ガッ!!!
突如として、生徒会室のスピーカーから、激しい音声ノイズ(警告音)が鳴り響いた。




