第十八話:ブザー・ビーターとエースの完全同期
――キュッ、キュゥゥッ!!!
激しい怒りのパケットを滾らせた道満は、突っ込んでそのまま呪術で大暴れするかと思いきや、驚くほど軽やかなステップで暗黒の霧が渦巻くコートへとログイン(侵入)していった。
ダム、ダム、ダム、と不自然な軌道で跳ねていたボールを強引に奪い取ると、道満は梨花たちの代わりに、そのコートを縦横無尽に駆け回り始めた。
それは、裏世界の陰陽師じゃねえ。かつてこの学園の女バスを牽引していた、正真正銘の『エース』としての綺麗なバスケのモーションそのものだった。
「――っ、道満! 何しとんねん!」
博雅が叫ぶが、道満は答えねえ。 影のディフェンダー(ノイズ)を鮮やかなクロスオーバーで抜き去り、綺麗なフォームからレイアップシュートを沈める。
だが、道満がボールに触れ、床を蹴るその一瞬一瞬、俺の網膜のスキャナーは、道満が自分の足跡と一緒に、極小の『呪』のプログラムを静かにコートの床へと織り込んでいるのを捉えていた。
奴は、試合のシステムを内側から逆ハック(侵食)しにいってやがったんだ。
ブーーーッッッ!!!!!
1試合目が終了し、非情なリセットを告げるブザーが響く。そして間を置かずに2試合目、3試合目へとタイムラインが強制ブートしていく。
同い年の仲間である梨花たちの命のゲージが削られるのは防げている。だがその代わりに、延々と特級エラーのトラフィックを一人で処理し続けている道満のステータスが、見る見るうちにオーバーヒート(消耗)を起こし始めていた。「ハァ......ハァ......っ! まだ、まだや......!」
ユニフォーム代わりにまとった戦闘用コートを汗で重く濡らし、白目を剥きかけながらも、道満は絶対にボールを離さねえ。流石の俺も、これ以上奴のメモリを焼き切らせるわけにはいかねえと、指先に無色の氣をリロードして戦闘に介入しようとした、その時だ。
「......っ」
一歩踏み出そうとした俺の目が、道満のその横顔にロックオン(釘付け)された。乱れた前髪の隙間から覗く、これまでに一度も見たことのない、最高に真剣で、
最高に綺麗な、エースとしての奴の目。
「......はぁ」
俺は伸ばしかけた右手をポケットへと戻し、心底だるそうに、だけど仕方のねえ長いため息を吐き出した。
なぁ、あんたならどう思う?いつもあざとく隣に張り付いてる奴がさ、こんなに命がけで、同い年の大切な仲間のために一人で戦ってる。それを横から無粋なパッチ(介入)を当てて台無しにするなんて、俺のルール(美学)が許さねえんだわ。
そして――運命の3試合目、残り時間はわずか1秒。
ハエ叩きのように襲いかかるノイズの壁を、道満は強引なフェイドアウェイで空中へと跳ねてかわした。限界を迎えた指先から、綺麗な放物線を描いてボールが放たれる。
――バサッ。
ボールが綺麗にネットを揺らしたその瞬間、同時に試合終了を告げる。
ブーーーッッッ!!!!!
最悪な無限ループのブザー音が、体育館に鳴り響いた。 だが、そのリセットのコマンドを、道満のブザービート(完璧な一撃)が完全に上書き(ジャック)しやがったんだ。
「――晴明、博雅!! 待たせたな、システムハック(準備)、完了やァッッ!!!」
コートの中央に美しく着地した道満が、かつてないほど獰猛で不敵な笑みをレンダリング(発生)させやがった。
道満が両手の指を鋭くパチンと鳴らした瞬間、3試合にわたって床に仕込まれ続けていた無数の呪のコードが、一斉に禍々しい【黒色】の光を放ってフルリブート(完全起動)をかけた。
空間が激しくチェンジ(反転)し、道満の全身から、これまでの芦屋流の闇のプロトコルとは全く質の違う、誰も観測したことのない『新たな能力(システム権限)』が爆音と共に解き放たれようとしていた。




