第十七話:インフィニティ・コートと元女バスの未練
「晴明、博雅! 次の『午前四時の体育館』のバグ仕様(怪談内容)、走りながらデコード(説明)するで!」
南校舎から夜の体育館へ続く渡り廊下を激走しながら、道満が戦闘用コートの袖を激しく翻して並走してきた。その横顔には、さっきまでのラブコメウイルスの赤みなんて一パケットも残っちゃいねえ。
「あの場所はな、本来なら誰もおらん時間帯に、キュッキュッと激しくバッシュが床を擦る音とドリブル音が響くらしいねん。その音に釣られて中に入った生徒はな、存在せえへん『幻影の試合』のメンバーに強制ログインさせられて、体力が完全にゼロになるまで永遠にコートを走らされ続ける無限ループプログラムなんや!」
「……なるほど、ハナコさん、十三階段に続く、最悪のデスゲームセクターなんかよ。やりたかないねー、ホンマによー!」
俺たちが息を切らせて体育館の重い扉の前にログイン(到着)した、その瞬間だった。
静まり返った夜の学園の中で、道満の説明通り、体育館の内部からだけ、――キュッ、キュッ、とゴムが床を激しく擦る異様なバッシュの音と、ダムダムと重いボールの音が、不気味なエコーを伴って響いていやがったんだ。
扉の前には、帰り支度を終えてスクールバッグを抱えた、女子バスケ部の新一年生たちが数人、腰を抜かしたように青ざめて床にへたり込んでいた。
「せ、先輩……道満先輩っ。急に、目の前で梨花先輩たちが……っ」
「誰もいない空間に向かって、急に走り出して消えちゃったんです……っ!」
新入生たちの絶叫ログ(悲鳴)。
有世がタブレットで叩き出した地脈のスキャン結果が、俺たちの網膜へと直接同期(共有)される。
「晴明先輩! 体育館の内部、すでに空間のプロトコルが完全に歪んで上書きされています!」
「分かっとる! ――行くぞッ!」
俺がドアを力ずくで蹴破り、俺たちはその歪みきったバグ空間の奥へと一斉にログイン(突入)した。
一歩踏み込んだ瞬間、体育館のコート全体が、ドロドロとした暗黒の霊気の霧で満たされた異様な試合ドメインへと反転していた。
そこで行われていたのは、実体のない『影のディフェンダー(ノイズ)』たちを相手にした、女子バスケ部の先輩たちの狂気じみた試合だった。
ブーーーッッッ!!!!!
歪な電子音が響き、試合終了のブザーが体育館に鳴り響く。だが、コート中央のスコアボードのタイマーが一瞬でリセットされ、また『第1クォーター:00:00』から非情なカウントアップ(再スタート)が始まりやがった。
コートを走らされている女子生徒たちは、すでにユニフォームを汗と泥のようなノイズでズタボロに汚され、ヘトヘトになって白目を剥きながら、システムに強制終了させられる直前の瀕死のステータス(死にかけている状態)で、ゾンビのようにボールを追いかけ続けていた。
「――っ、何て最悪なバグ(嫌がらせ)を起動させてくれとんねん……ッ!」
その光景を見た道満の瞳が、これまでに見たことのない激しい怒りのパケット(殺気)を滾らせて細められた。
そうだ。道満は、生徒会に入るために、未練を断ち切って退部した――元・女子バスケ部のエースだったんだ。
「……晴明、博雅。ここは、うちの元ホームグラウンド(セクター)や」
道満は戦闘用コートの袖をバサッと引きちぎるようにして腕を捲り、かつて何万回とボールを掴んできたその両手の指を、激しく、鋭く交差させて『九字切り』の印を最速でコンパイルし始めた。
「うちの仲間のログを、そんなクソみたいな無限ループで弄んでんちゃうぞ……ッ!! 晴明、博雅、ここはうちに全権限を回しぃな!!」
かつてのエースが放つ、芦屋流のドス黒くも圧倒的な呪術のトラフィックが、体育館のコート全体へと一気にオーバーレイ(上書き)されようとしていた。




