第十六話:ラブコメ・ウイルスと最高管理者のぼやき
――ドガァァァァァンッッッ!!!!!
博雅の指先から解き放たれた純度100%の『黄金の矢』は、音楽室を鳴動させていた不協和音を正面から押し潰し、ベートーベンの肖像画をその巨大な瞳ごと分子レベルで完全に粉砕した。
キャンバスの破片が光のパケットとなって四散し、鼓膜を焼き切ろうとしていた『呪いのソナタ』が強制終了される。音楽室のドメインに、いつもの放課後の静寂(正常値)が静かにリブート(再起動)していった。
「ハァ……ハァ……。よし、何とか一括消去できたみたいやな」
氣の弓を消滅させ、ブレザーの袖で汗を拭う博雅。
その、夕日を背に浴びて立つ源家の次期当主の姿を、背後で見ていた新一年生の弓削が、完全に網膜のOSをフリーズ(呆然)させて見つめていた。
「……っ、カッコよすぎる……ッ」
弓削は両手を胸の前でギュッと握りしめ、顔を一瞬にして林檎のように真っ赤に染め上げやがった。昨日みかんをくれた時から怪しいとは思ってたが、今の完璧なスナイパーパッチ(狙撃)を見て、博雅のアカウントに完全にハートマークの常駐ハック(一目惚れ)を完了させちまったらしい。
床に倒れていた新入生たちの生存ログを確認しながら、俺はそのあまりにもベタすぎる学園ラブコメのレンダリング(光景)を横目でスキャンして、心底だるそうに頭をガシガシと掻いた。
「……やってらんねぇー、ホンマによー」
おいおい、マジかよ。こっちは命がけで学校のセキュリティ管理(バグ退治)をマルチタスクで回してんのによ。何で昨日から連続で、こんな当てつけみたいな甘酸っぱいエラー(青春ログ)を見せつけられなきゃなんねーんだよ。
俺が最高に不機嫌な音声ログ(ぼやき)を吐き散らしていると、隣にいた道満が、フンスと鼻を鳴らしながら、戦闘用コートの袖をあざとく引っ張って俺の顔を覗き込んできた。
「何や晴明、そんな僻みパケット送信せんでもええやんか。……あんたには、ウチがおるやろ?」
道満は顔を少し赤らめながらも、爛々と輝く瞳で俺の網膜を真っ向からロックオン(視線同期)し、いたずらっぽく、だけど本気度100%のあざとい笑顔をオーバーレイ(上書き)してきやがった。
「――っ、道満、お前はそれ以上俺の処理回路に余計なノイズ(負荷)をかけるな。頭が本当に熱暴走するわッ!」
俺が思わず顔を背けてコーラの残りを一気に飲み干そうとした、まさにその瞬間。
俺たちのスマートフォンと、生徒会室の有世を繋ぐ通信回線が、またしても容赦のない最悪のエラーアラート(警告音)をブチ鳴らしやがった。
『――晴明先輩! ラブコメのプロトコルにログインしている暇はありませんッ! メインサーバーから、またしてもイレギュラーな連続ハックが検出されました!』
「有世!? 嘘やろ、今度は一体どこのセクターやねん!!」
俺のクエリに、有世の冷徹な、だけど焦りを含んだ音声ログが、次の破滅のソースコードを一直線に叩き込んできた。
『体育館です! 二十四時間サイクルを完全に無視して……【第五の不思議:午前四時の体育館】の無限ループプログラムが、今まさに強制リブート(起動)をかけましたッ!!』




