第十五話:ソニック・ハック・呪いのソナタ
――ズ、ズガガガガガガッッッ!!!!!
南校舎の階段を駆け上がり、音楽室のドメインへとログイン(到着)した瞬間、鼓膜から脳の最深部へ向けて、脳ミソを直接鉄の爪で掻きむしられるような最悪の不協和音――『呪いのソナタ』の音響パケットが爆音で流れてきやがった。
「――がっ、あ……アガガガッ! 頭の、頭のメモリが……ッ!」
音楽室の床には、夕方の自主練習で居残っていたらしい新一年生が数人、頭を抱えてのたうち回り、発狂しかけてエラーログを吐き散らしていた。
奴らの視線の先、壁に飾られたベートーベンの肖像画。そのキャンバスのテクスチャがドロドロと歪み、剥き出しになった巨大な『瞳』が、獲物を見据えるスキャナーのように爛々と怪しい赤色に輝いていやがったんだ。
「晴明、ここは音響のバグや! 俺の黄金の矢で、肖像画の瞳の座標ごと一発で音の発生源をブチ抜いてやる!」
凄まじい音圧のノイズを浴びながら、博雅が自慢のフィジカル(黄金の氣)を限界突破でリブート(起動)させた。
その両手に眩い光を放つ氣の弓がレンダリングされ、一パケットの狂いもない精密スキャン(狙撃)の照準が、ベートーベンの赤い瞳の座標へとガチッとロックオン(同期)されていく。
「博雅、焦んなよ! 奴の視線同期に引っかかったら、矢を放つ前に精神を常駐ハックされんぞ!」
「分かっとるわ、晴明! 博雅の射線を、うちの九字切りで完全ガードしたる!」
道満が素早く両手を交差させ、博雅の視界の前に一時的なノイズ遮断パッチ(防壁)を強制上書き(オーバーレイ)した。
「有世、そっちのスピーカーからの音響ハック、数秒でいいから減衰できんのか!」
『やってます! 【土御門流・音響妨害】!!』
生徒会室の回線から有世のシャープな音声が響くと同時に、音楽室の空間のトラフィックがほんの一瞬だけミリ秒単位で強制ミュート(消音)された。
その完璧な連携によって生まれた、文字通りの『空白のタイムライン』。
「――今だ、博雅ァッ! 奴のレンズの奥まで、根こそぎタスクキルしやがれッ!!」
俺の咆哮を合図に、博雅の指先から、音速を遥かに超えた純度100%の『黄金の矢』が、爆音を置き去りにして解き放たれた――。




