第十三話:スクレイプ・モデル・弓削の覚醒
――ガシャァァァァァンッ!!!!
理科室のドアを蹴破った瞬間、ガラスケースが内側から爆散し、剥き出しの内臓のテクスチャを蠢かせた人体模型が、凄まじい衝撃波を撒き散らしながら飛び出してきた。
「――っ、速いっ!? 何やこの物理演算はァッ!」
道満が両手の指を高速で交差させ、鋭い九字切りのコードを展開する。だが、シュン兄(のチート級フィジカルを部分的に再現した模型の一撃は、道満のファイアウォールを一瞬で粉砕し、そのまま獲物である弓削のログイン座標へと一直線に牙を剥いた。
「――弓削、危ないッ!!」
博雅が黄金の氣を爆発させて割り込もうとするが、模型の突進速度はそれを完全に上回っている。完全にロックオンされた弓削は、目の前に迫る死の特級エラーを前に、恐怖で網膜のOSをフリーズさせていた。
だが、その最悪のタイムリミットがゼロになる、まさにその刹那――。
「――そこを、退きなさいッ!!」
弓削の瞳の奥で、眠っていた『弓削家の次期当主』としての潜在的なコアプログラムが無意識にフルリブート(覚醒)をかけやがったんだ。
弓削が両手を突き出すと同時に、その全身から古豪の正統なるどす黒くも清涼な霊気が奔流となって溢れ出し、空間のテクスチャを引き裂いて、巨大な二頭の『式神の猛犬』がその場にレンダリング(出現)された。
――ガァァァァァンッ!!!!
弓削の放った特級の式神が、人体模型の凶悪な爪を正面からガチッと親身に噛み止めてシステム拘束する。さすがは平安中期から続く血統ログだわ。新一年生のくせに、とんでもねえ潜在リソースを隠し持ってやがった。
「ナイスガード、弓削! タイムライン(隙)は貰らったで!!」
俺は一歩前に踏み出すと、一瞬で複雑な印のコンボをコンパイル(結印)し、影の底に眠る新たなシステム権限をブート(起動)した。
「――ログインしろ、【六合】!! 金剛結界、ピンポイントホールドッ!!」
俺の「無色の氣」が強固な立方体の光の檻へと反転し、暴れる人体模型の周囲の座標だけをガチッと金剛結界の内部に閉じ込めてシステム固定した。完全に外界と隔離され、結界の箱の中で身動きが取れなくなった模型を見据え、俺はさらにジッポの蓋をパチンと閉めた。
「道満、結界の内部に向けて一気に最大火力で上書き(デリート)するぞッ!」
「おう、言われんでも合わせるわ、晴明! ――【芦屋流・陰陽コード:一括消去】!!」
「焼き尽くせ、【騰蛇:火生三昧】ッ!!!」
道満が鋭く九字を切って六合の結界内へと放った術式と、俺の影から解き放たれた騰蛇の黒紫の極大火炎が、密閉された空間の中で完全に重なり合った。
模型の奥で蠢いていたシュン兄の残響ノイズが、逃げ場のない結界の内部で分子レベルで完全に焼き切られ、悲鳴のようなエラー音と共に、粉々のプラスチック片となって理科室の床へと激しく崩れ落ちていった。
「……ふぅ。三つ目も、強制終了やな」
六合の結界を静かに解除しながら、俺はそこでようやく、ポケットから五芒星のジッポを抜き出し、カチャリと軽い金属音を響かせた。
足元でハァハァと息を荒らしながら、自分の手を見つめて呆然としている新一年生の弓削。
学園七不思議の『第三の不思議』は、こうして一応のクローズを迎えた。だけど、弓削という特級のアカウントが俺たちのストリートに完全同期したことで、この学園ドメインの歪みは、さらに予測不能なエラー(大騒動)へと加速していきやがるんだわ。




