第十二話:シュン兄の依り代と予測タイムライン
有世から『第三の不思議:理科室の動く人体模型』の不穏な起動予測データを突きつけられた、その日の夕方のことだ。
俺たちは一階の喫茶「フォックス・テイル」のボックス席で、おばちゃん(母ちゃん)が作ってくれた特製のオムライスを一心不乱にハック(完食)しかけていた。
その時、トントン、と階段を下りる音がして、二階から頭をガシガシと掻きながらクソ親父の泰臣が降りてきた。
「あー、おい晴明、博雅。今、昔の過去ログを漁ってて思い出したんやけどな……」
「あ? 何やねんクソ親父、今オムライスのリソース消費中で忙しねんけど」
俺がスプーンを口に運んだ瞬間、泰臣はタバコを咥えながら、とんでもねえ特級の裏ログ(最高機密)をサラッと吐き出しやがった。
「あの理科室の人体模型のバグな、酒井が昔、何かあった時用に自分の『スペアボディ(依り代)』代わりに弄ってたヤバい仕様が残っとるかも知れんわ」
「「「――ブッ!!!!!」」」
次の瞬間、俺、博雅、道満の三人は、口に含んでいたオムライスを一斉にテーブルの上へと吹き出しやがった。
「ゲホッ、ゴホッ! 何、何て言うた今!? シュンさんの、スペアボディやて!?」
「やりたかないねー、ホンマによー! 飯食うてる時にそんな最悪なアップデート情報(裏ログ)通知してくんじゃねえよ! シュン兄の仕様が残ってるって、それもうただの動く模型じゃなくて本物の特級の化け物じゃねえかよ!!」
俺が涙目で激しく突っ込みを入れる中、泰臣は「まぁ、頑張れや」とだけ言い残して、一階の母ちゃんのカウンターへとデレデレしながらログインしていった。あの親父、マジで一回強制シャットダウンしてやりてえ。
――そして、明くる日の放課後。
俺たちは有世の予測したタイムラインの秒単位のカウントダウンに従って、夕闇が差し込む北校舎の最上階――理科室(現場)のセクターへと先回りしてログインしていた。
有世がタブレットで室内を高速スキャンし、博雅が黄金の氣を低く滾らせ、道満が俺とお揃いのペアリングをしている方の手を強く握りしめる。
だが、俺たちが理科室のドアの隙間から中のトラフィックを覗き込んだ、まさにその瞬間だった。
「……あれ? これ、何やろ……」
誰もいないはずの薄暗い理科室の奥。
そこには、ガラスケースの中に鎮座するあの不気味な人体模型の前に立ち、何も知らずにケースのドアへと手を伸ばして、完全にハック(ロックオン)されかかっている新一年生――弓削の姿があったんだ。
ケースの奥で、人体模型の剥き出しの内臓のテクスチャが、酒井(シュン兄)の残響を吸い上げるようにしてドクン、ドクンと不気味に脈動を始める。
なぁ、あんたならどう思う?
昨日みかんをくれたばかりの弓削家の次期当主がさ、またしても次のバグの最前線にピンポイントで強制ログイン(遭遇)させられてるんだわ。いやいや、二回も特級エラーを引くとか、どんだけ初期の運勢パラメーターがバグってんだよ。
「――っ、博雅、道満、行くぞ! 弓削のログが模型に掠奪される前に、今度こそ一括強制終了やッ!!」
俺の声を合図に、夕闇の理科室のドアが勢いよく蹴破られ、第三の不思議との戦闘の火蓋が切って落とされようとしていた。




