第十一話:ニュー・エントリーと不穏なログ解析
西階段の十三段目を白虎の爪で強制終了した、その翌日の放課後のことだ。
俺たちが生徒会室で溜まったパケット(書類仕事)をだるそうに処理していると、コンコン、と控えめなノイズを立ててドアが開いた。
「あの……失礼します……っ」
おずおずとログイン(入室)してきたのは、昨日、博雅の太い腕にサルベージ(救出)されたばかりの新一年生の女の子だった。真新しいブレザーの裾をぎゅっと握りしめ、顔を真っ赤にしながら、俺たち生徒会メンバーを交互にスキャンしている。
「あの……昨日は、本当にありがとうございました! お礼を言いたくて……これ、私の実家のみかん農園で採れたやつなんですけど、皆さんで食べてくださいっ!」
女の子が机の上にドンと置いたのは、網袋にパンパンに詰まった、美味そうなみかんの山。
「おぅ、わざわざすまんな。無事で何よりやわ」
俺が椅子の背もたれに頭を預けたまま気怠く音声ログを返すと、博雅が「気に病むことはないで、それが俺たち生徒会の仕事やからな」と、いつになく爽やかなイケメンパッチ(笑顔)を起動させやがった。道満も「わぁ、みかん! うち、みかん大好物やねん!」と、さっそくみかんの皮を高速ハック(剥き)し始めている。
「私、一組の【弓削】って言います! また……何かあったら、生徒会室に来てもいいですか?」
弓削と名乗ったその新一年生は、博雅のイケメンぶりに完全に処理落ち(赤面)しながらも、俺たちのストリートに新しいコネクション(繋がり)を繋いで、嬉しそうにログアウトしていった。
バタン、とドアが閉まった直後――それまで黙って弓削の後ろ姿を凝視していた副会長の有世が、スッと冷徹な目をこちらに向けた。
「晴明先輩、今の子……たぶん陰陽師の古豪、弓削家の次期当主ですよ」
「――弓削って、あの平安中期の陰陽師、弓削是雄の弓削家か?」
有世の口から吐き出された予想外の血統ログ(ステータス)に、俺は思わず上体を起こして、その歴史あるアカウント名をデコード(復唱)した。
夢占いや式神遣いとして名を馳せた特級術者の系譜。俺と道満の動きがピタリと止まる。一般生徒のフォルダ(噂話)だと思って叩いていたハナコさんや十三階段のバグに、そんな裏社会の特期リソース(次期当主)が最初からロックオンされていたなんて、あまりにも電波が悪すぎる。
「……まぁ、その解析は後回しです。晴明先輩、まったりしているところ申し訳ありませんが、これを見てください。場所を移して、フォックス・テイルでディープスキャン(詳細解析)の結果を同期(共有)します」
有世のその真剣なパケットに、俺たちは放課後のストリートを抜け、母ちゃんの店である喫茶「フォックス・テイル」のボックス席へと場所を移した。
母ちゃんの淹れてくれた美味い珈琲の香りが漂う店内で、有世はタブレットの画面を俺たちの網膜へと突きつける。そこには、ハナコさんと十三階段、二つの怪異の発生座標を結ぶ不気味な回路図がレンダリングされていた。
「一昨日のトイレのハナコさん、そして昨日の西階段の十三階段。……この二つのバグ(怪異)の発生パターンを詳細にスキャンした結果、ある不穏な『規則性』が見えてきました」
「……規則性やて?」
道満が珈琲カップを持ったまま眉をひそめる。有世は画面のマップを指先でスライドさせながら、冷徹なシステム分析を口にした。
「はい。どちらの怪異も、新一年生の『好奇心(アクセス数の増加)』をトリガーにして地脈の淀みを急激に吸い上げ、きっちり【二十四時間の間隔】を空けてリブート(起動)しています。……このタイムラインの規則性が正しいとすれば、次にデータがオーバーフローを起こし、強制起動するセクターは、明日の放課後――」
有世の指先が、学園のマップの一箇所をトントンと鋭く叩いた。
「北校舎の最上階。――【第三の不思議:理科室の動く人体模型】。このドメインで、早くも次の新一年生をターゲットにした、不気味な起動予測データ(エラーコード)が検出されています」
「――ッ!?!?」
有世の口から吐き出された冷徹なソースコードに、俺、道満、博雅の脳裏に、夜中の理科室で生体リソースを掠奪しに走ってくる、あの悍ましい模型のテクスチャが血塗られたノイズとなって点滅し始めた。
「……はぁ、マジかよ! 二十四時間サイクルで一括ダウンロード(同時多発)してくるのかよ!」
俺は珈琲を飲み干すと、ポケットから五芒星のジッポを抜き出し、カチャリと軽い金属音を響かせた。
なぁ、あんたならどう思う?
助けた新入生が実は弓削家の次期当主だと分かって、驚きのパッチが当たったと思ったその数分後にさ。次の怪異がいつ、どこにログインしてくるか、分単位のカウントダウン(予測)を突きつけられてるんだ。やりたかないねー、ホンマによー!




