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第十話:メタル・クラッシュ・白虎の凶牙

 ――ガガガ、ギギギギギッッッ!!!


 十三段目の奈落の底から這い出てくる、泥のような怨霊のパケットノイズ。新一年生たちの身体がズルリとゲートの向こう側へと引きずり込まれそうになった、まさにその一瞬――俺の指先が、超高速のパラレル演算で最後の印のコンボを叩き込んだ。


「ハックできねえなら、システムごと叩き潰すしかないやろ! ――ログインしろ、【白虎ビャッコ】!!」


 俺の放った「無色の氣」が凄まじい金属音のノイズへと反転し、西階段のドメイン全体に、圧倒的な殺界のプレッシャーがレンダリング(展開)された。


なぁ、あんたならどう思う?

さっきまでただのコンクリートの塊だった学校の西階段がさ、黄昏の夕日を浴びた途端に地獄の底のダークウェブ(怨霊セクター)と勝手に直結しちまうんだわ。神戸の東遊園地のまんなかで、地面がいきなり底なしのドブ川に変わるようなもんだぞ。やりたかないねー、ホンマによー。


 ――グォォォォォォォォンッッッ!!!!!


 だが、俺のシステムから強制召喚されたこいつのスペックは、そんな不条理なローカルバグなんて一パケットも通用しねえ。

 空間のテクスチャを内側から引き裂いて姿を現したのは、銀色の毛並みを獰猛に逆立てた、西方を司る金気・滅殺のアドミン――十二天将が一角、白虎だ。


「白虎ッ! そのクソみたいな階段のコード、空間ごと一刀両断して永久デリートしやがれッ!!」


 俺のクエリ(命令)を受信した瞬間、白虎が咆哮と共に虚空を蹴った。

 すべてを切り裂く物理特化の白銀の爪が、無造作に一閃される。


 ――キィィィィィィンッッッッ!!!!!


 西階段の空間そのものが、まるでハサミで切り取られたフィルムのように美しく『断裂』した。

 おぞましい怨霊のトラフィックも、地脈の底へ繋がっていた十三段目のゲートのソースコードも、白虎の放った【空間断裂】の鋭利な軌道の前に、一パケットの例外もなく文字通り真っ二つに切り裂かれていく。構造物のルールすら無視した圧倒的な絶対切断のデバッグだ。


「――今だ、博雅! 新入生のログをサルベージしろッ!」

「おうっ!!」


 ゲートの空間が両断され、システムの同期が一瞬だけ強制終了フリーズしたその隙を突き、博雅が黄金の氣を爆発させて突入。奈落に落ちかけていた新一年生たちの身体を、その太い両腕で一網打尽に抱きかかえて安全圏の踊り場へと引きずり戻した。


直後、パァンッ、とガラスが割れるような電子音が響き、真っ二つに裂かれた十三段目のバグ領域は、分子レベルで完全に消去デリートされやがった。


「……ふぅ。二つ目も、クローズやな」


白虎が静かに影の底へとログアウトしていくのを見送りながら、俺はタバコを指に挟み、ジッポの蓋をパチンと閉めた。

踊り場にへたり込んでカタカタと震えている新一年生たち。


これで学園七不思議の『第二の不思議』もデバッグ完了。だけど、俺の脳内OSの警告フラグは、まだ一本も下がっちゃいねえんだ。シュン兄の消えたこの世界線、俺たちの怠惰なタイムラインを侵食するバグは、ここからさらに加速していきやがるんだわ。

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