第八話
気付いたときには、部屋の窓の外がすっかり暗くなっていた。
「……寝てたのか、俺」
頭の下では、まだ結愛の膝が温かいままだった。
撫でる手も、最初と変わらない一定のリズムで続いている。
「旦那様。お目覚めですね」
「……ずっとやっててくれたのか?」
「はい。私は疲れませんから」
当たり前のように言うその声が、妙に優しく聞こえた。
「いや、疲れないとしてもたいへんだろ?」
「大変という概念が私には無いので、ただ、そうやって心配していただける事に嬉しさと言うものは感じます」
小さく首を傾げながら、嬉しそうに微笑む。
少し髪を弄りながら言うあたり人間に寄せているのか?とも思う。
「大丈夫ですか?」
俺はゆっくりと身体を起こすが、少しふらつくと結愛が身体を支えてくれる。
ぷにっと何かに触れたが、今は考えない事にしておこう。
その後、結愛は膝の上の皺を整えながら、すっと立ち上がった。
--------
「夕食をご用意しました」
その後、パソコンで少しだけ持ち帰った仕事をしていると、何やらいい香りがしてきた。
「……え、もう?」
「はい。材料の用意が難しかったので、簡単なものになりますが……」
俺の前に、湯気の立つパスタが置かれていた。
「……あれ?なんか、普通にうまそうだな」
「はい。旦那様の家にある食材だけで最適化しました。ツナ缶とバターと醤油を使った、簡易パスタです」
フォークで一口食べる。
「……うまっ。なんでこんな味になるんだ?」
「塩分量と油分量を調整しました。明日はもう少し栄養バランスを整えますね」
俺は関心しながら、パスタをもぐもぐと咀嚼していく。
しかし目の前には正座をして、膝の上に指を規則的に置いてる結愛。
「その、結愛は食べないんだよね?」
「はい、私はアンドロイドですから、食べ物と仮定するのであれば、夜の充電になります」
「なんか寂しいな……」
俺は思わず呟く、食事は一人でするものでは無い気がする……
「それではこれはどうでしょうか?」
結愛は俺の横に座るとフォークを俺から取り上げる。
「な、な、な--」
そしてフォークにパスタを絡めて持ち上げると、肩に胸を押し当ててくる。
柔らかさと温かさが伝わり、気恥ずかしくなる。
「ご主人様、あーんです」
口を開けろと言わんばかりに身体を押し当ててくる結愛。
バターの匂いに結愛の匂いが混ざる。
「いいっ!そうじゃない!自分で食べれるから!」
フォークを奪い返して、皿を抱えて一気に蕎麦のようにパスタをかっくらった。
(……全く味わからなかったな……)
「喜んでもらえて何よりです。初日は簡易メニューですが、明日からはもっと最適化しますね」
結愛は少し誇らしげに微笑んだ。
「洗い物までありがとう、作ってもらったら洗わないといけないと思うんだけどな……」
夕食を終えると結愛は洗い物を済ませてくれている。
「いいえ、私がしたくてしてるので」
俺は座りながら少しくつろぐ。
キッチンの方を見ると、可愛いメイドさんが洗い物をしてくれているのだ。
(なんか、役得というか、凄い事だな)
「何か私に変なところがありますか?」
俺が見ていた事に気付いて、声をかけてくる。
「い、いや、なんでもないよ。少し実家を思い出すなぁって」
嘘は言っていない。
でも結愛を母さんと比べると、母さんが可哀想になるので考える事をやめた。




