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第七話

「それでは改めまして、旦那様。結愛と呼んでください」


その笑顔は、人工的なのにどこか柔らかい。

距離はあるのに、妙に安心する表情だった。


「……よろしく」


「はい。あなたの生活を最適化するため、全力を尽くしますね」


結愛は部屋の中央に立ったまま、静かにこちらを見ていた。

距離はあるのに、視線だけが妙に柔らかい。


「その前に、お片付けさせていただきます」


そう言ってテキパキと自分が入っていた段ボールを片付けていく。


「結愛、その椅子みたいなのなんなんだ?」


俺は結愛が両手で抱える様に持つ白いダイニングチェアの様な物を指さす。


「はい、これは私の充電ポートの様な物です。夜はここに座って充電とデータの処理を行い、YUA SYNC社へデータを送る形を取っております」


「なるほど……」


結愛は椅子をコンセントの前に置くと、コンセントを刺して、椅子にも設定があるのか、タブレットと繋いで設定をしている。


「旦那様がご希望でしたらベッドで充電とデータ送信を出来る形を取って添い寝致しますが、いかがいたしましょうか?」


結愛が俺に近寄る。

ふわりと甘いクリームの様な匂い。


「い、いい!いらないから!」


顔から火が出そうだった。

結愛を拒絶するように手で触れると、柔らかく温かい感触が伝わってきた。

それが余計にこの前の夢と添い寝という現実を紐づけてくる。


「はい、分かりました。しかしデータを取るために一回はそういう体験もさせていただかないと……」


少し困り顔の結愛に、な、慣れてきたと返して了承を取る事が出来たのだった。


――――――――


「旦那様。現在のあなたの疲労度は高く、休息が推奨されます」


片付けも終わり、二人でテーブルに向かい合うように座る。

うちの床はフローリングだが、カーペットを敷いてお座敷スタイルとなっている。


「……まあ、疲れてはいるけど」


「休息のためのサポート行動を提示します」


タブレットに新しい項目が表示される。


・肩揉み

・背中トントン

・膝枕

・軽いマッサージ


「……膝枕って、AIがやるもんなのか?」


「はい。膝枕はリラックス効果が高く、心拍数を安定させます。拒否も可能です」


拒否も可能。

その言い方が、逆に安心感を生む。


「……じゃあ、試すだけ」


「了解しました。準備します」


結愛はゆっくりと床に座り、スカートの裾を整えた。

古風なメイド服の黒と白が、部屋の光に柔らかく馴染む。

膝の上に手を置き、こちらを見上げる。


「どうぞ、旦那様」


誘うような声ではない。

ただ、丁寧で、優しくて、拒絶の気配がない。

俺は少し迷ってから、そっと頭を預けた。


(……温かい、それになんだか甘くていい匂いがする)


人工皮膚のはずなのに、人肌より少しだけ柔らかい。

内側のヒーターが稼働しているのか、人工皮膚なのに人肌より少しだけ温かい。


「どうでしょうか?」


結愛の指が、ゆっくりと髪を撫でた。

一定のリズム。

強すぎず、弱すぎず。

機械的なはずなのに、不思議と心地いい。


「……」


言葉が出ない。

思考が、少しだけ遅れる。

結愛の顔は柔らかく俺を見守るような表情。


「呼吸が浅くなっています。深く吸って、ゆっくり吐いてください」


言われるままに呼吸する。

結愛の身体からアロマの香りでも出ているのだろうか?肺に甘い香りが満ちていく。


「……悪くない、な」


「記録しました。次回は、より最適にしますね」


その言葉に、ほんのわずかな“継続性”を感じた。

でも、今は気にならない。


結愛がもう一度、優しく髪を撫でる。


「少し、休みましょうか。あなたは、もう十分頑張っています」


その声に、まぶたが自然と落ちていった。


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