第四話
「……もしもし」
俺が渋々電話をしている姿を横から、宮坂がニヤニヤと見ている。
今すぐ腹にパンチを入れて、チキン南蛮と唐揚げをリバースしてやりたい。
『おつかれ。声、死んでるよ?』
彼女である。真理の笑い声が聞こえた。
いつも通りの、優しい笑顔だ。
俺には勿体ないくらいのいい彼女だ。
『相変わらず疲れてそうだね。ちゃんと食べてる?』
「宮坂君と楽しく、定食食べてるよ」
『あぁー、いいなぁ私も透真君とご飯食べたいなぁ」
電話口で羨ましそうに答える。
「宮坂君に奢らされてますよ……」
その瞬間宮坂がえっという顔をしている。
俺はさっきの仕返しとばかりに切り込んでいった。
「先輩にたかる後輩もどうかと思いませんか”課長さん”」
俺はそう言ってから、わざとスピーカーにする。
きっと真理も察している筈だ。
『そうねぇ……出張から帰ったら、少しお話しましょうか?』
「す、すいませんっ!」
宮坂が最速で箸を置いてテーブルに額を擦りつけた。
『ふふっ、冗談よ。透真君と仲良くしてあげてね』
「は、はいっ」
そう言って安心そうな顔をする宮坂。
俺はそのままだと少し話しづらいので、ちょっと席を空けると言って、店の外へ出る。
『それと週末には出張から帰るからさ。日曜日どこか行こうよ。前に言ってた映画とか、行けてないでしょ?』
その言葉に、胸の奥が少しだけ重くなる。
行きたい気持ちがないわけじゃない。楽しみでもある。
でもデートプランを考えるだけで疲れる。
「……そうだな」
『それと、来月の旅行の話もしようね。そろそろ決めないと』
また“決める”だ。
真理は悪くない。正しい。優しい。
でも、今の俺にはその優しさが重い。
「そ、そうだ真理。少しいい?」
『あ、そうだよね。なんか用事あったんだよね?』
そして切り出す。
「結愛って分かる?YUA SYNC社のやつ」
『AIロボのテスター募集ってやつ?今時だよね?』
「……俺、当たった」
『え、マジ?あれって一人に対して二十万人とか応募あったやつだよね?』
「うん。そうそう、酔った勢いでなんだけどね」
『ふーん。アンドロイドなんでしょ?便利そうじゃん』
ふーんが若干引っかかる気がしたが、そのまま続ける。
「でも女だよ?」
『人間の女の子だったら許さないけどね』
軽く笑う真理。
その軽さが、逆に胸に刺さる。
『AIなら別にいいよ。あなたが楽になるなら、使ってみたら?』
「……真理がいいなら」
『うん。あなたが決めたことなら、私は応援するよ』
その言葉が、また重い。
“決めたことなら”――その一言が、今の俺にはしんどい。
「……わかった。受け取ってみるよ」
『うん。無理しないでね』
通話が切れたあと、その場の静けさが戻ってくる。
真理は優しい。正しい。
でも、未来の話をされるたびに、胸の奥が少しずつ沈んでいく。
俺は深く息を吐いた。
「……受け取るか。結愛」




