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第二十七話

透真side


結愛の身体は、驚くほど軽かった。

色々なパーツが入っているアンドロイドなのに、普通の女の子みたいな重さだ。


「……結構軽いんだな」


返事はない。

腕の中の結愛は、力が抜けたように静かだった。

その静けさが逆に不安を煽り、俺は歩く速度を自然と早めていた。


(結愛……無事でいてくれよ……)


近くのホテルへ駆け込み、休憩用の部屋を借りる。

薄暗い照明の室内。

ベッドへそっと結愛を寝かせると、ようやく一息ついた。

だが胸の鼓動はまだ落ち着かない。


「えっと……確か、充電用のコードがあるって聞いてたけど……」


焦りながら記憶を辿る。

人間そっくりのアンドロイドとはいえ、構造まで詳しいわけじゃない。

“どこだっけ”と呟きながら、結愛の身体に触れる手が震える。


(これは緊急事態……緊急事態だ……)


自分に言い聞かせながら、お腹や背中を手で確認する。

額に汗を滲ませながら探していると、結愛がか細い声を漏らした。


「……GPSから充電可能ポイント特定、充電モードへ移行します……」


「うおっ!? だ、大丈夫か!?」


結愛は寝たまま、太もものあたりからコードが伸びて、コンセントを探している。

スカートがずれて太ももが露わになっていく。


「あっ――」


思わず視線が止まり、俺は慌てて顔を逸らした。

近い、というか近すぎる。

人間と変わらない滑らかな肌に、妙に心臓が跳ねる。

“落ち着け俺”と心の中で叫ぶ。


「こ、これをコンセントに挿せばいいんだよな……?」


「……はい……お願いします……」


どこか弱々しい声に急かされ、俺は急いでコードをコンセントへ差し込んだ。


――数秒後。

結愛の瞳に、ほんの少しだけ光が戻る。

その瞬間、俺は胸の奥がじんわり緩むのを感じた。


「……充電を確認しました。助かりました、透真さん」


「よ、良かった……急に倒れるから焦ったぞ……」


俺はベッド脇へ腰を下ろすと、結愛寝ながらはじっと見つめてくる。

その視線が妙に真っ直ぐで、俺は思わず息を呑む。


「原因は推定済みです」


「え?」


「透真様とのキスによって、一時的に高負荷状態へ移行しました」


「…………」


一瞬、思考が止まる。

柔らかかった唇の感触が脳裏を掠め、顔が一気に熱くなった。

“思い出すな俺”と自分に言い聞かせるが、無理だった。


「そ、そういうの先に言えよ……!」


「学習しました。次回から事前警告を行います」


「次回って……」


結愛は充電ケーブルを繋いだまま、小さく首を傾げる。


「今後は、自宅で行うことを推奨します」


「い、いや、そんな何回もしないからな!?」


「では、一〜二回程度でしょうか」


「そ、それは……まぁ……テストなら……」


「はい。テストです」


即答だった。

しかも結愛は、さっきまで停止寸前だったとは思えないほど嬉しそうに微笑んでいる。

その笑顔が、俺の胸をまたざわつかせる。


「……絶対、分かって言ってるだろ」


深くため息を吐く、結愛は何か?とでも言いたそうに続ける。


「はい。学習済みです」


いたずらっぽく細められた瞳に、俺はもう何も言い返せなかった。


※※


「旦那様……こんな場所へ来るなんて……意外と大胆なんですね」


結愛が、ベッドの上で小さく首を傾げた。

仰向けに寝ている為、栗毛がベッドの上で波のように広がっている。

胸は呼吸?鼓動?なのか隆起して、よくよく見ると少し肌も赤みを帯びている。


天井ではミラーボールがゆっくり回っている。

薄暗い照明、妙に広いベッド。

どう考えても、空間の雰囲気がおかしい。


「し、仕方ないだろ……!」


俺は思わず声を上げた。


「結愛を抱えたまま電車にも乗れないし、ネカフェも説明つかないし……!そしたらホテルくらいしかなかったんだよ!」


「なるほど」


結愛は素直に頷く。


しかし次の瞬間、怪しげにくすりと笑った。


「ですが旦那様。少しは期待されているのでは?」


「はぁ!?」


結愛が仰向けになりながら、俺の腕を握る、柔らかくも力強い。

ふわり、と甘い香りが漂う。

結愛から目が離せない。


「そ、そんなわけないだろ……! AI相手だぞ……!?」


「それでは、もう一度試してみますか?」


結愛は目をつむる。

まるで俺の事を待つように――


「しない!」


俺は即答する。


「……そうですか。残念です」


そう言った結愛の雰囲気が変わった。

先ほどの頬の赤みもなくなり、胸の隆起もしていない。


「っ……分かった、俺の事試したろ?」


「学習意欲です」


「そう言えば許されると――」


結愛は少し目を潤ませている。本当にずるいと思った。

俺は頭を抱えると、結愛はおとなしくベッドで寝転がりながら目を閉じている。


「はい。では、大人しくしております」


「本当に?」


「はい」


疑わしい。

だが部屋は静かになった。

ミラーボールだけが、ゆっくり光を散らしている。


「「…………」」


なんとなく気まずい。

いや、雰囲気が完全におかしい。

俺が視線の置き場に困っていると、結愛がぽつりと言った。


「旦那様も、少し休憩なされてはどうでしょうか?」


「……それもそうだな」


精神的に疲れすぎた。

俺が寝転がろうとすると、結愛が腕を伸ばしてきた。


「結愛の腕、お貸しいたします」


「えっ」


「以前の行動記録から、透真様はこちらを好むと認識しております」


「行動記録って言い方やめろ……それに腕枕は男がするんじゃないのか?」


「それは男性差別になります」


俺は短く嘆息してから、そっと頭を預けた。

柔らかい、不思議なくらい安心する。

結愛は残った片手で優しく俺の頭を撫でる、髪を指一本ずつかき分けるように、時に手のひら全体で頭を包むように。


「……相変わらず癒されるな」


「はい。旦那様のストレス値が低下しています」


「便利すぎるだろお前……」


結愛は静かに俺を見つめる。

ベッドの上に散らばった長い栗毛がさらりと俺の身体に触れる。

結愛に包まれているような気分だった。


「旦那様がお望みであれば、結愛はなんでも致しますよ」


「っ……!」


俺の肩が跳ねる、心臓の早い鼓動が収まらない。


「こ、この雰囲気で変なこと言うなよ……!」


「変なことでしょうか?」


結愛は本当に不思議そうに首を傾げながら、そっと顔を近付けてきた。

お互いの視界が、栗毛の髪でふわりと覆われる、甘い香りが近い。

ただそれだけなのに、胸が苦しいほど高鳴る。

心臓が、嫌なくらい大きな音を立てた。


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