表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
22/35

第二十二話

シャワーを浴びて、家着のTシャツとスウェットを適当に身につけてリビングへ戻る。


扉を開けた瞬間──

思考が一瞬、止まった。


「どうでしょうか、旦那様」


そこに立っていた結愛は、いつものメイド服ではなく、淡い水色のワンピースを身にまとっていた。


「その……会社から支給されているモノなので。お見苦しいかもしれませんが……」


お見苦しいどころか、芸能人かと思うほど綺麗で、言葉が出なかった。

柔らかい布地が光を受けてふわりと揺れ、肩から胸元のラインも自然で、動くたびに裾が軽く波打つ。


(……可愛いな)


反射的に浮かんだ言葉に、自分で驚く。


「この服装で、外出は問題ないでしょうか?」


結愛が少しだけ首を傾げる。

その仕草が妙に人間らしくて、胸がざわついた。


「……ああ。すごく、似合ってるよ」


言った瞬間、結愛の表情がふわっと明るくなる。


「良かった……です」


その笑顔に、また胸が跳ねた。


(……俺も、まともな服に着替えないとな)


クローゼットを開けようとしたとき、結愛がすっと近づいてきた。


「旦那様、こちらのシャツが本日の気温に最適です」


差し出されたシャツは、俺が選ぶよりずっと“外出向き”だった。


「……ありがとう」


受け取ろうとした瞬間、結愛がさらに一歩近づく。

ふわり、と甘い香りがした。


(……結愛の匂い?)


昨日の抱擁のときに感じた、あの優しい香り。

でも──

その奥に、微かに“別の香り”が混ざっている気がした。


(……真理の……? いや、気のせいだ)


結愛はAIだ。

そんなはずはない。

そう思いながらも、胸の奥がざわつく。


結愛が近くで微笑む。

その唇が、いつもより少しだけ艶やかに見えた。


光の加減かもしれない。

でも、目が離せなかった。


(……俺はAI相手に何を考えてるんだ)


慌てて視線を逸らす。


「だ、大丈夫ですか、旦那様?」


「いや……なんでもない」


結愛は不思議そうに首を傾げた。

その仕草がまた胸に刺さる。


(……落ち着け。今日はただのテストだ)


そう自分に言い聞かせながら、俺は結愛の選んだシャツを手に取った。


--------


駅までの道を歩き、電車に乗り込むと、昼前の車内はそこそこ混んでいた。


結愛は俺の隣に立ち、吊り革をそっと握る。

淡い水色のワンピースが揺れるたびに光を拾って綺麗だった。


(……やっぱり可愛いよな)


そう思った瞬間、周囲の視線がちらちらと結愛に向いているのに気づく。


若い女性、学生、サラリーマン。

みんな一瞬だけ結愛を見て、すぐ視線を逸らす。


(そりゃ見られるよな……)


そんなことを考えながら結愛を見ると、結愛が小さく首を傾げた。


「……旦那様? 何か、ついていますか?」


「いや、なんでもない」


「不思議な旦那様です」


その言葉に、近くの乗客がちらっとこちらを見た。


(……やばい)


“旦那様”という単語が、この公共空間では妙に響く。


「……あのさ、結愛」


「はい?」


「外では……透真って呼んでくれ」


結愛は一瞬だけ固まり、ほんの少しだけ頬を染めたように見えた。


「……と、透真……さん」


その声が小さくて、電車の揺れに溶けていきそうだった。


(……なんだこれ、めちゃくちゃ恥ずかしい)


俺も顔が熱くなる。

二人して前を向いたまま、電車の走行音に耳を澄ませた。


ガタン、ゴトン──

規則的な音が、心臓の鼓動と重なって聞こえる。


結愛は隣で静かに立っている。

でも、さっきより少しだけ近い気がした。


(……落ち着け。今日はただのテストだ)


窓の外に視線を向けると、結愛が小さく「……透真さん」と呟いた。


--------


真理side


昨日は透真と飲んで、明日はデート。


(……ほんと、ひさびさだよね)


だから今日は、そのための買い物に来ていた。

新しいリップ。

軽めのファンデ。

少し可愛いトップス。


(透真、喜んでくれるかな)


そんなことを考えながら店を出たとき──


「あれ、宮坂くん?」


「えっ、課長!? なんでここに!?」


宮坂くんが男友達と歩いていた。


「買い物よ。あなたは?」


「いや、その……カラオケっす。友達が今日どうしてもって……」


宮坂くんが言いかけたそのとき、視界の奥に“もっと気になる二人”が映った。


(……え?)


水族館へ向かう通路。

そこを並んで歩く二人。


透真。

そして──

見たことのない可愛い女の子。


淡い水色のワンピース。

栗色の髪をまとめて、ぎこちなく透真の隣を歩いている。


(……誰?いや、待って……)


透真が最近話していた“テスター”。

生活支援AI。

名前は──


(……もしかして、あれが結愛?)


胸が、きゅっと鳴った。


「宮坂くん」


「は、はい」


「あなたも一緒に来なさい」


「えっ!? ちょ、課長!? 俺、今日カラオケで──」


「いいから」


腕を掴んで歩き出す。


「うわっ、ちょ、ちょっと待ってくださいって!あれ透真先輩ですよね!?隣の子……あれ結愛ちゃんじゃないっすか!?なんでデートしてんの!?俺なんで拉致られてんの!?課長ぉぉ!」


宮坂くんの友達は気圧されて一歩引き、


「……た、達者でな!宮坂……!」


とだけ言って見送った。


「宮坂くん、急ぐわよ」


「いやいやいや課長!?今日ロクな事ない気がするっす!」


(……透真。あなた、何してるのよ)


胸の奥がざわついたまま、私は二人の後を追った。


「自分の話聞いてほしいっすー!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ