第二話
「おはよう……」
事務所に入る。
仕事は法人向けの営業だ。
今日も何件か回る予定で、みんな資料を早めに仕上げようと躍起になっている。
「おはようございます篠森主任」
四歳年下の入社二年生で、今は二十四歳。
茶髪のショートヘア―に、まだ着られている様に見えるスーツ。
「おはよう宮坂、また今日も早いな。ちゃんと帰ってるのか?」
宮坂の目の下に立派なクマが出来ている。
「いや、資料作っておいて欲しいって言ったの主任ですよね……?」
そう言って完成した資料を俺に渡してくる宮坂。
中身を確認すると、それなりに完成しているが、若干のアラは見えた。
「悪かったな……午前中の仕事周り終わったら、昼奢るから許してくれ……」
「やりましたね。高級焼肉でも楽しみにしておきます」
俺は宮坂の頭をくしゃくしゃっとする。
「調子に乗るなっ。と言いたい所だけど、頑張りは認めるよ。あと少し俺にしか分からない所があるから修正しておくよ。外回りに出る時間まで、こっそり寝てきていいから」
そう言うと宮坂は少し嬉しそうにする。
子犬のようなやつだ。
「じゃあお言葉に甘えさせてもらいます」
「あぁ、甘えろ甘えろ」
そう言うと、宮坂は誰も使わない応接室に向かった。
あそこにはソファーがあるので、少し仮眠を取るにはちょうどいいはずだ。
――――――――
そして資料を完成させ、朝礼に居ない宮坂のフォローを軽くこなし、取引先との商談を完了させ、お昼ご飯の時だった。
「先輩、ありがとうございますっ」
「たまにはいいだろ?」
二人で来たのは少し隠れ家チックな定食屋だ。
サラリーマンの知る人ぞ知る、と言った様な見た目の店だ。
「どれにするか悩みますね……」
メニュー表を見ながら悩む宮坂。
「男ならささっと決めろよ……俺はホッケの開き定食かな」
「そう言ってもこういうのは迷いますよ……」
こんな事で悩めるのが羨ましいと思ってしまう。
主任として大企業の歯車となって、毎日承認申請承認申請と求められる訳で、もう辟易している。
「分かったよ。唐揚げかチキン南蛮どっちかにしておけ、若いんだし」
「いや、先輩だって若いじゃないですか!?」
面倒になった俺は近くに居た店員を捕まえる。
「注文いいですかー?ホッケの開き定食と、チキン南蛮定食ごはん大盛りと、唐揚げ単品二個で」
「はい、注文承りましたぁー」
メモをしながら、去っていく。
宮坂はぐぬぬと言った顔をしていたが、俺はそのまま話を続ける。
「決めない宮坂が悪い。むしろ両方にしてあげたんだ、感謝して欲しいくらいだな」
「僕が魚系だったらどうするつもりだったんですか!?」
「高級焼肉だろ?チキン南蛮と唐揚げ」
宮坂は頬を膨らませていた。
全く可愛い後輩だ。




